real | ナノ



06.16 ( 18:01 )

「幼なじみに、すげぇ自己中心なやつがいてさ」


グリーンがそうこぼしたとき、皮肉にも私たちは初めて会ったときと同じ土を踏んでいた。ごつごつした火山岩は河川のものとは対照的なありさまを見せ、どろりと大蛇のように街を呑み込んだと報道されていた熔岩のあとは時の流れたいまでもまだ拭いきれてはいない。

回復力の高い草花が率先して覆うそれを乗り越え、ふり返ることなくこちらに寄越されたことばに私は足をとめたのだけれど、グリーンは知ってか知らずかそのまま歩みをつづけた。きらきらと降りそそぐひかりが彼の猫っ毛をクリアに透かすから、ひらいた距離がこわくなって背を追う。

私よりずっと歩幅のおおきなグリーンにそう簡単に追いつけるはずもないのは、それだけグリーンがうわの空であることの証でもあった。ちいさな黒い、肌を傷つけそうなほど荒いかたまりにつまずいて私が転びかけてようやく、グリーンはハッとしたようにこちらを振り向いた。


「わりぃ、速かったか」
「ちょっとね」
「ふ、悪ぃな、足が長くてなー」
「うるさい! 私はべつに短足じゃないから!」
「え? だれもお前が短足だなんて言ってないけど?」
「……!」


どうだと言わんばかりに意地悪く笑みを返されて、私は歯噛みする。そうすれば耐えきれなくなったグリーンが弾けるようにははっと声をあげて笑いだす。それはさながら、出会ってしばらくの頃、居心地のよかったあの頃みたいに。

仕事の関係ではるばるカントーのグレン島の地質調査にきた私と、仕事から逃げるようにグレン島に羽を伸ばしにきたグリーンと、ひと気のないちいさな島であることを考えれば出会うのは当たり前だった。

3日連続でくるときもあれば、2日、3日の間があく時もある。グリーンがこの島に足を運ぶ頻度はあいまいで、毎日のように足繁く通う私の身の上を、彼が疑問に思うのも当たり前といえば当たり前ではあった。

私のなんてことない、けれど楽しくもない身の上を話してから、グリーンの態度は急に軟化した。他愛ないやりとりが大切になるのはたぶん時間の問題だった。


「……で、幼なじみがどうしたの?」
「ああ、うん。 物ごころついたときから一緒にいた幼なじみでさ。ガキのころは毎日あそんでたし、喧嘩したし、探検したり……一緒にいるのが当たり前だった。けど、お互い負けずぎらいだったんだよな。ポケモンはじめてからは、ライバルだった。……ライバルだと思ってたんだよ、オレは」


あいつは強かった、とぽつりつぶやいたグリーンの背中にかける声を、私は持っていなかった。

いつだっただろう? 打ち解けていくうちに誰よりも近くにいるんだと自惚れていた私がこなごなに打ち砕かれたのは。グリーンは隣にいたけれど、グリーンのこころの半分はだれかに持っていかれたままなんだと気づいたのは。

グリーンがグレン島にくる理由が、羽を伸ばすためなんかじゃないと気づいたのはいつからだったの。

噴火後、再建されることなく自然に返された島はひどく奔放で、雑多な草花と若木の茂る場所になっている。火山口に溜まった雨水から浄化されて流れる水は清く、草花をゆらす風は爽やかで、こちらに背を向け空を仰ぐグリーンのシルエットははっとするほど綺麗だった。


「あいつは強くて、オレは一度だって勝てなかった。……最初にたどり着くのはいつもオレで、後からきてすべてを掻っ攫っていくのはいつだってあいつだった。オレがやっとのことで手に入れたチャンピオンの座も……。それなのに、あいつは……!」


かすれてフェードアウトする最後の音。いつもなら耐えない風が、こんな時だけ自重したように止まっているのに。なんとなく気づいてはいたのだ、初めから。彼は特別をもつ人であり、彼のすべての関心が向くのはただ、同じ特別を秘めた、彼よりもおおきな存在だということに。

情けねーな、と自重するようにつぶやかれたことばに、私はついにことばを返すことができなかったし、何を言ったとしてもグリーンのこころに響かないのもわかっていた。



ここで羞恥により書けなくなりました。何このポエム文…!
レッドとグリーンの表裏一体的な、切っても切れない関係がすきで(BLではなくですよ)、それをあえて「こっちを見てくれない」ことで出してみたかったのですが。難しいです…またいつかリベンジしたいです。
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -