「これから、ウチに来ませんか」
けっこう勇気を出して言ったセリフだったが、王子はなんとも思わなかったらしい。
「え?犬小屋に?」
「………」
俺はこらえた。「なんか狭そう」とか言ってる王子の胸ぐらをつかんで締め上げたい衝動を抑えつけた。二人で食事して酒を飲んで、ほどよく酔ってほどよく夜も更けて。さあどうしようか、なんて、そりゃ方向性は決定している。それに従っただけだっていうのになんで台無しにするんだこの人は!
沈黙する俺をよそに、王子はケータイを取り出してカチカチとボタンをいじりはじめた。
「この前行ったホテルがすごく良かったからさ、そこ空いてたら泊まろうよ」
「は?」
「ダブルでいいよね」
俺がぽかんとしているうちに電話をかける王子。電話の向こうからコール音が漏れ聞こえたところでハッとして、慌てて王子の手ごとケータイをひっつかんで電源ボタンを押した。
「なにザッキー、スイートがいいとか言うつもり?」
「男二人でダブルの部屋とかヤバいでしょう!ホテルの人間に怪しまれますよ!」
「怪しむもなにも…」
「いやそうなんですけど!俺らプロなんですよ人の目があるんですよ!」
結局俺は王子の上着の襟あたりをつかんでしまっている。シワを作ってしまう、と気付いて慌てて手を放すと、王子がゆっくりと襟を直して俺の目をのぞき込んできた。
「それで、ザッキーは僕にどうしろっていうの」
「…ツッ、」
視界を占めたイケメンの顔に、たしかに俺は怯んでしまった。
「…ツインに、…せめてツインに、して下さい…」








title by 虫喰い
20101019


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