リボンのような形のパスタから緑色のソースが垂れる。達海はその滴が白い皿の縁に落ちたのを見届けて、持ち上げていたフォークを皿に戻した。
まずいとか口に合わないとかいうわけではなくてただなんとなく、なんだかなあと思っただけだ。ついさっき聞いたはずのパスタやソースの名前がすでに一文字も出てこないことに気付いて、下ろしたフォークでパスタを刺すとガチリと皿が鳴る。
「遊んでないで食べなよ」
向かい側の席でジーノがワイングラスを口に運ぶ。パスタにワインにイタリア男。達海は、うわあ、ホントになにこれと声に出してツッコミかけたのを辛うじてこらえて、パスタが刺さったままのフォークを手の中でくるくると回して持ち直した。今日の達海は珍しく意識して我慢をしている。マイペースな伊達男に食事に誘われ、それに大人しくついて来て、さっさと注文されて出てきた料理を口に運びながらよくわからない車だの家具だのの話を聞かされて、そんなふうに流されるままになっているのは、一つの疑念があったからだ。
ぼんやりと食事を再開すると、ジーノの話は「今日は泊まっていけ」というような内容になりはじめたので、達海は思い切って胸の内にある疑念を口にした。
「あのさあ、変なこと聞くけど」
「なに?」
「もしかして俺って、お前に口説かれてるとこなの?」
ジーノの笑顔が引っ込んだ。
「ちょっとやめてよ」
代わりにすこし不快そうな息が漏れ聞こえる。なにかを納得しかけた矢先に言葉が続く。
「そんな野暮なこと聞くの?」
「…俺の勘違いじゃなかったのね」
どうしようこれ、と思いながら達海はフォークを手にした自分の右手とパスタの皿を見下ろした。








title by カカリア
20101015


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