コンコンと軽いノックの音がしたかと思うと、返事もしないうちに部屋の扉が開けられた。
「失礼するよ」
いつでも気障ったらしい声がそう言って、ジーノが部屋に入りこんできた。
ベッドに腰かけてなんとなくテレビをつけたところだった達海は、意味もなく微笑んでいるジーノを見上げて不思議そうな顔をする。
「なに、なんか話?」
練習中は特に変な様子はなかったけどまた足に違和感があるとか言い出すのかなあ、などと考えていると、ジーノはその考えを見透かしたようにフフフと笑う。
「話ってほどじゃないけど、ちょっと用事があってね」
そう言いながら達海に近寄り、ベッドに並んで腰を下ろした。私服に着替えたジーノからは香水かなにかの匂いがする。テレビでは夕方のニュースが流れており、達海はなんとなくそれに目を向けた。
「んで、なに」
テレビを見たまま適当に促すと、ジーノは少し腰をあげて、二人の肩が触れあうほどの位置に座り直す。
「タッツミー、こんな部屋にひとりで寝起きしていて寂しくなったりしない?」
なにを言い出すんだと振り向く前にジーノが体を傾けてきたので、あっと思う前にベッドに倒れ込んでしまった。ジーノが覆い被さるかたちで、横向きに倒れた達海の腕のあたりに額をくっつけている。
「吉田、重い」
「それやめて」
ジーノが顔をあげて、体に腕を回してくる。にっこり笑いかけられると逆に無愛想な顔をしてしまうが、相手は気にもとめないようだ。
「もー…、なんなのホント」
ジーノはベッドに手をついて移動し、達海の耳に口を寄せた。
「甘えていいよ」
それだけをささやいて、まるでうなじの匂いを嗅ぐように顔をうずめて沈黙してしまう。
「………」
しばらくの後、はーあ、とため息をついて達海はジーノの黒髪に手をやった。
「甘えてるのはお前だろ」








title by 虫喰い
20101017


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