テーブルの上に何気ない様子で紙箱が置かれてるのは視覚で認識していたが、達海は特に気にもしていなかった。 ジーノに「それ開けてみなよ」と言われて、改めてその箱をまじまじと見る。ブランド名らしきものが箔押しされた箱の蓋を開けてみると、中から出てきたのは金色に光る立派な腕時計だった。 「こういう金ぴかのって、なんかヤンキーぽくない?」 「…それより他に言うことはないのかい」 「俺時計とかあんま詳しくないし」 隣に座ったジーノが「そうだろうね」とでもいうように、黙って微笑んだ。 箱を開ける前と変わらない、興味なさげな達海の気を引くように、細長い指が時計を持ち上げてかちゃりと留め具を外す。 「品の無い人間がつけるから下品に見えるんだよ」 ほら、とジーノは金色の時計をつけた自身の手首を見せる。たしかにそれは似合っていて、キレイだ。 「きっとタッツミーにも似合うと思うな」 「…いや、いい」 こちらの顔を覗き込む仕草に、もしかしてこの時計は俺のためなのだろうかという思いが頭をかすめたが、気をまわすことが苦手な達海の口は、いつも通りに素っ気ない言葉しか発しなかった。しかしジーノは気分を損ねたりせず、なんともない顔で時計をつけた手首を引っ込める。そしてどこに置いてあったのか、達海に開けさせた箱と同じものを取り出して、今度は自分でその蓋を開けてみせた。 「そう言うんじゃないかと思って、ちゃんとステンレス製も準備してあるよ」 ジーノの手首で光る金色の腕時計と同じデザイン、色はシルバー。達海はぽかんとした顔で差し出されたそれを見て、次にジーノの顔を見て、しばしの沈黙の後にひとこと言った。 「正直引いたんだけど、って言っていい?」 「素敵!って言って抱きついてよ」 「ごめん素敵すぎて逆に引くわ」 title by 虫喰い 20101026 戻る |