女性を口説くときは余裕をもって。焦る男は嫌われる。
では男を口説くときはどうなのかということは考えてもみなかった、というか男を口説くなんてことがあるとは思ってもみなかったのである。考えてみたって今更だ。口説き方なんて考えてなかったのでとりあえず実力行使に出てみて、相手を組み敷いてしまっているのだから。
暴れる足を膝で押さえつけると、タッツミーの顔が歪んだ。苦痛の色。はっきりと聞いたことはなかったけれども、若くして現役を引退したってことは膝でも壊したのかなあと頭の片隅で考えながら更に体重をかけると、左足はほとんど無抵抗になった。痛そうな顔。かわいそうに。
「ふざけんな、っ」
しかめた眉の下で強い光を宿した目が僕をにらみつけている。ふざけるなとはまったくもって心外なコメント。真剣だからこそこんなことになってしまったというのに、ひどいな。
「そんなこと言わないでよ」
顔を近づけて猫なで声を出したものの、僕を射抜く目は変わらない。うっかり唇に口づけたら噛まれそうな様子だったので喉元にキスをしたら、少し息を止めたのがわかった。躍起になって抵抗しようとしたせいか、皮膚から伝わる体温が熱い。
その体温にもっと唇で触れたくて首筋や鎖骨の辺りにキスを落としていたら、頭上から低くうなるような声が響いた。
「ぶっ殺す」
それに対してなぜか無感動になってきている自分に気付く。これはきっと、開き直り。








title by 虫喰い
20101024


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