「どうしてお前ってそうなの」
いままで頭の中でなら幾度となく思った言葉が、ついに声となって発された。言われた側のジーノは気を悪くするかと思ったがそうでもなく、いまだ微笑みを浮かべて俺を見ている。
「“そう”って?」
むしろ無邪気とも言える問い返しに、こっちがたじろいでしまった。
「いや…だから、つまりああいう」
言いよどんでいるうちにジーノが近寄ってきて、俺の両手を持ち上げるとまとめてぎゅっと包み込むように力を込められた。
「…タッツミー」
微笑みが引っ込んで真剣な表情になり、真正面から見つめられる。「は」とも「え」ともつかない声を出してしまったがジーノは気にする様子もなく、瞳を覗き込むかのように顔を寄せてきた。至近距離にたじろいで視線をそらすが、両手を掴まれているので体を離すことができない。
「どんなことでも言ってちょうだい、全て受け止めるよ。愛してるから」
甘い声に、甘い濃密な空気。
「…うん、だから、それだよ」
「え?」
拍子抜けしたようなジーノを見つめ返して言葉を続けた。
「愛してるー、とか、キミのためなら死ねるー、とか、この愛に命を捧げる覚悟はできてるー、とか、なんでお前ってそんなことぽんぽん言えるの?そんなに死にたいの?」
「タッツミー…」
戸惑うように名前を呼ぶ声に、さすがの王子もしょぼくれたかと思った。こいつには少し大人しくなってもらったほうがいいと思ったのだが、しばしの間の後、ジーノは満面の笑みを浮かべて俺を見ていた。
「タッツミー、照れちゃったんだね」
優しくそう言われて、俺は呆然とした。なにか言わなければと言葉を探すうちに、かあっと熱がのぼってきて耳が熱くなる。
「いや、違うから。そうじゃないから」
まともな反論もしないうちに抱きしめられて、「かわいい」なんて耳元で囁かれて、俺のために死ねるというならいま死んでくれ、と切実に思った。








title by 虫喰い
20101110


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