考え事をしている彼の背中に寄り添い、その腰に腕をまわして抱きしめる。テレビとベッドとテーブル、必要最低限のものしかないくせに資料が散乱しているせいで雑多に見えるこの部屋は、彼がいつでも旅立てることを暗に示しているかのようでうそ寒い。
左肩に頬を乗せて、少しでも接している部分を多くしようとする。くっついているとわずかながらも温かさを感じて、それを逃したくないと切に思う。体温でさえも、うかうかしていたらいつのまにか消えてなくなってしまいそうだと、そう考えると苛立ちに似た感情がふつりと心の奥から湧き出てきた。逃すまいと、ぎゅう、と腕に力を込める。
ねえ、と声をかけて、名前を呼んで、彼と目を合わせて微笑みあいたいのにそれができない。彼の目はテレビ画面と資料にしか向けられていなくて、試合を分析する自分とサッカーだけで構成された世界に没頭している。僕が声をかけても振り向いてはくれないのではないだろうかという不安は、悲しいことに不安ではなく実際の現実なのだった。本当は無理矢理にでもこちらを向かせたいのだけれど、そんなことをしたら彼は逃げてしまうかもしれない。だから僕は、彼の機嫌を損ねない程度に、彼の意識の外でその体を抱いている。僕の知らないうちに、どこかへ行ってしまわないように。それはささやかな幸せで、葛藤した末の悲しい愛情表現なのだ。









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