浅い眠りから覚めたとき、まず感じたのは喉の渇きだった。唾液を嚥下することも困難なほどに渇いた喉を無理矢理動かすと痛みを感じて、思わずぎゅっと眉根を寄せる。
その次に感じたのは人の気配なのだが、どうやらそれはなるべく静かにしようと息を殺しているようであった。有里か、それとも後藤かとゆっくり目蓋を開けてその人を探すと、その存在は驚くほど近くにあり、しかも達海が真っ先に想像した人物ではなかった。ジーノだ。達海が寝ているベッドの横に膝をついている。
すぐにばちりと視線が合ったが、ジーノは何を言うでもなく、ただ黙って微笑んでみせてそっと達海の頬を撫でただけだった。
「なにやってんの」
仕方なしに口を開いたが妙にかすれた声しか出ず、喉を湿らせようともう一度唾液を嚥下してみても痛いばかりで喉は回復しない。再び眉根を寄せると、宥めるようにジーノが細く息を吐いてこめかみを撫でてくる。やめろよ、と唇を動かすのだが声は出てこなかった。
「風邪、うつるぞ」
ようやくそれだけを言ったが、ジーノにはまるで聞こえていないかのように無反応だった。ただ、髪や頬にそっと指で触れて、軽く撫でているばかりである。どうせなら水や果物を持ってきてくれるとか、そういった看病らしいことはしないのかと思いながら、もはや言葉を発することもしたくなくなり、なすがままに大人しくしていた。
薄っぺらいカーテンを透過した陽の光で、部屋の天井が妙に白々と明るい。ぼうっとしながら汗ばんだ髪を撫でられているとまた眠れそうになってきたので、達海は体の左側を下にして横向きの姿勢になった。一度ジーノに視線をやり目を閉じると、一度引っ込められた手が再び達海の頬に触れ、ごく軽く指の背で撫でられる。達海は思わず口元を緩めてしまってから、今のは満足気な顔に見えてしまったかもしれない、と思いながら再び眠った。








20110507


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