「やあタッツミー。元気?」 『まず名を名乗れよ』 携帯電話の小さなスピーカーから、やる気のないタッツミーの声が流れる。周りのテーブルの会話や雑音にまぎれないように受話音量をひとつ上げた。 「ディスプレイに名前出てるでしょ」 着信が誰からだなんてこと、携帯なら嫌でもわかるっていうのにタッツミーはいつもとぼけてみせる。しばしの沈黙の間に、タッツミーが携帯を耳から離して画面を見るしぐさをするのが目の前のことのように想像できた。 『吉田って名前が出てるな』 「ジーノだよ」 『吉田じゃん』 毎度のことですっかり怒る気にならなくなったやりとりだったが、タッツミーはいつも楽しそうにそれをする。意地悪に笑う彼の顔を思い浮かべて、ああ、やっぱり電話なんかじゃなくて直接会いたいなあと、そう思ってしまったことがなぜか悔しい。 『なー、用ないんなら切っていい?俺いまお前にかまってらんない』 タッツミーのことだから、どうせ試合の分析だろうなあと思いながらも聞いてみた。 「・・・なにしてたの?ちなみに僕は女の子とデートしてるんだけど」 『俺もだよ』 その一言の後、ぷつりと電話が切れる。 言われたことの意味が理解できず、僕はデート相手の女の子が化粧室から戻ってくるまで、呆然と手の中の携帯電話を見下ろしていたのだった。 戻る |