何の脈略もなく、好きだよ、と言ってみた。なるべくなんでもないことのようにあっさり言うように心がけたし、この類のことを言うのは今回が初めてというわけではなかった。しかし後藤はじゅうぶん驚いたらしい。目が見開かれて口はパクリと開いて、いったん閉じて、そしてまた開いて何かを言おうと動いて、また閉じた。ぱくぱく開閉する口を見ながら、俺は少し満足した。 「どうしたんだ」 「どうもしないけど」 「なんかあるのか」 「別にないけど」 「ふざけるなよ」 「ふざけてないよ」 すまして答えていると後藤は言うべきことが尽きたのか、視線を外して押し黙ってしまう。しばらく考え込むような顔をした後、再び顔を上げて口を開く。 「あのな、そうやって俺のことからかうなよ。冗談だってわかってても吃驚するからさ」 考える時間があってもそんなことしか言えないのかよと、声に出して言ってやれば俺のがっかり感はこいつに伝わるだろうか。 「なんというか、向こうから告白されて付き合っても振られて終るタイプっていうか、微妙にズレてるよね後藤って」 ため息混じりにそう言えば、後藤は少し嫌そうな顔をする。 「少しぐらい俺の言うことちゃんと聞けよ」 「やだね。これでも俺、いっつも勇気出して言ってんのに」 「結局なにが言いたいんだ」 ストレートに言っても回りくどく言っても伝わらないのは、男同士だからだろうなと分かっている。しかしそれは一番どうしようもないことなので、俺はそれについて嘆くのをとうの昔に止めた。 「後藤のことが好き」 「・・・・・・」 「冗談だなんて思わなかったくせに」 またしても後藤の口が言葉を失って、ぱくぱくと開閉する。 「いいよ。冗談じゃないから」 にやにやと笑いながら言ってやると、右手を顔に押し当ててうつむいた後藤が搾り出すような声で言った。 「なんでお前って・・・」 続く言葉は、意味不明なうめき声にしか聞こえなかった。 title by カカリア 20110207 戻る |