珍しく僕のマンションに来たタッツミーが「風呂入らせて」なんてことを言い出した。お風呂?と聞き返すと、「湯船に浸かりたい」というので、僕は黙ってお風呂の準備をした。いつもシャワーだけなので自分でも使わないが、ハウスキーパーが掃除をしていてくれるバスタブに湯を張る。
浴室に広がる湯気を見ながら、今日は寒いからもしかして膝が痛むのかな、なんてことを思った。
棚からバスタオルを出してリビングに戻ると、タッツミーはソファーにぐったりと沈み込んでいた。背のほうから顔を覗き込むと、いかにも疲れた様子で眉間にシワを寄せて目を瞑っている。小さな声で呼びかけながら、そっと髪に触れ、頬を撫でると目が薄く開いて眉間のシワが消えた。
「すぐにお湯溜まるから」
「・・・んー」
「ご飯食べてないでしょ、なに食べたい?」
「なんでもいい・・・味濃いのがいい」
ぐぐぐ、とタッツミーが背伸びをすると、肩の関節が鳴る音が聞こえた。腕を下ろして息をつき、バスルームへとふらふら歩いていく後ろ姿を見送って、僕はキッチンへと向かう。疲れてるし、寝不足でもあるだろうから食後にホットワインでも飲ませて寝せようかな。ベッドルームも暖房入れて暖かくしておかないと。冷蔵庫のドアに手をかけて段取りを考え、いざ冷蔵庫の中身をチェックしてメニューを決めようとドアを開けたところで、はたと気付いた。
「タッ、タッツミー!タッツミーどうしよう!!」
「あー?」
慌てた僕が浴室の扉を開けると、タッツミーはシャンプーの泡を垂らした姿で振り返る。湯気が立ち込める中に顔を突っ込んで、先程気付いてしまったことを確認のために尋ねた。
「なんだか僕、タッツミーの奥さんみたいじゃない!?」
言った後で、さあっと血が上ってくるのを感じたが、タッツミーの方には表情に変化はなかった。
「あー、じゃあ背中流してくれよ奥さん」
「えっ」
予想外の返答に言い返したいことは色々あったが、それは後々じっくり話し合うことにして、とりあえず一つ目の主張だけを言った。
「せめてハニーって呼んでほしい」
「え、そこ?」









title by 虫喰い
20110206


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