たった一言で世界が変わって見えた。
いつも目にする風景が不思議と新鮮味を帯びて、いま僕は生まれ変わったんじゃあないかと思う。斜め前を歩くタッツミーにそう言うと彼はゆるりと振り返って笑った。その笑顔に胸の奥がぎゅっとしたので手を伸ばしてタッツミーをつかまえ、更に抱き寄せようとすると笑顔は消えてしまった。
「人に見られるぞ」
距離をとるように僕の胸を軽く押して、タッツミーは歩き出す。
たったの一言で、僕と彼の関係はまったく違ったものになった。抱きしめてキスをしたい、と正直な気持ちを声に出すとフラフラ歩いていた足が再び止まる。軽い笑い声をあげて振り返ったタッツミーの笑顔は、やっぱり胸の奥をぎゅっとさせるのだった。
「お前って子どもみたいだよな」
笑顔に誘われるように歩み寄るが、先ほど距離をとられたことを思い出して立ち止まる。
「お前から終わりにしようって言ったのに、いざとなったら惜しくなったのか」
そう言うタッツミーの笑顔が哀しげに見えたので、僕は彼に触れる代わりに笑いかけた。不思議だ、やっぱり違って見える。
たったの一言で。
「じゃあな、今まで楽しかったよ」
タッツミーは僕の視界を変えた言葉をもう一度言うと、背中を向けて歩き出した。
「仕方がないよ」
ひどく遠くから響いたような声は、何に向けてのものだったのだろうか。










title by カカリア
20101205


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