犬がわんわん吠えている。 「王子、」 ぺらりと雑誌をめくると、いい感じの時計が目に入った。時計、男前には素敵な時計も大事だよね。 「王子!」 犬がひときわ大きく吠えて、僕が眺めている雑誌が前足で掴まれた。あれ、そういえば犬なんて飼ってたっけ? 「聞いてんですか」 顔をあげると、犬、もといザッキーが眉間にシワを寄せてこちらを見下ろしていた。 「聞いてなかった」 笑顔で答えると、「そうでしょうよ」なんてつぶやかれた。なんだか可愛げないね。 「ザッキー、手をどけて。お行儀の悪い犬はキライだよ」 軽く放った言葉に、ザッキーの顔が更に険しくなった。雑誌から手を離すどころか、ますます強くつかんできたものだからページがヨレる。 「俺はあんたの恋人じゃないんですか」 「ああ…、うん。まあ呼び方なんてどうでもいいじゃない」 「よりによって王子がそんなこと言いますか」 ははっ、と笑って聞き流すが、ザッキーはまだ険しい顔をしているので僕が雑誌をあきらめることにした。空いた両手を軽く広げてみせる。 「こっちおいで。しつけてあげるから」 「犬じゃないって言ってんでしょうが」 そんなことを口にしながらも、雑誌をつかんだままのザッキーが僕へ一歩近づいたので、手を引いて抱き寄せた。 「こうやってくっついていれば、名前とか呼ぶ必要ないじゃない」 肩口に頬を置いて背中を撫でていると、ザッキーも僕の背中に手を伸ばしてきた。よしよし、おりこうさん。 「じゃあ俺は、王子が名前も呼べないくらいヒイヒイ言わせればいいんですね」 「…卑猥だね」 なんということだ、逆に僕をしつける気でいるらしい。 title by 虫喰い 20101017 戻る |