企画 | ナノ
どんな日クリスマス


この時期、世間はかなり浮かれていると思う。
どのくらいかって言うと、プライベートは引き篭り気味の俺が分かるくらい。


「悠莉、お前にとってのクリスマスって何?」


綺麗なイルミネーションやらほったらかしで俺の部屋に入り浸る恋人に聞く。
悠莉は少し悩んだかと思うと、事も無げに言い放った。


「全てを許す日じゃないですか?」


さすが俺の恋人を長年務めているだけはある。独特の感性だ。


「許すって何を?」


俺がそう聞き返せば、悠莉は「例えばですね」と切り出す。


「妙な場所に立ち止まっている人とか、のろのろ歩くカップルとか、無意味な人ごみとか……」


言葉にものすごく棘を感じるが、悠莉の穏やかな雰囲気に流される。
俺と目が合うと、悠莉は一旦言葉を区切って微笑んだ。


「今日はクリスマスだから仕方ないかな、って」


別にクリスマスじゃなくてもお前いつも許してんじゃん。
そう思ったが、言葉にはしなかった。


「心を広く持たないとやってられない日ですよね」


俺が無言を続けていると、悠莉が新たに言葉を発した。
それには敢えて同意せずに俺はまた問いかけた。


「じゃあ、クリスマスプレゼント用意してない恋人も許す?」


その問いに悠莉の微笑みが苦笑いへと変わる。
どういう意味か量りかねて黙っていると、やはり悠莉が先に言葉を紡いだ。


「もちろん許しますし、逆に私も許してもらわないといけません」

「何を?」


長い付き合いだし、本当は悠莉の意図するところも分かってるけど。


いちいち聞き返すのは悠莉の声を多く聞きたいから。
言い方がまどろっこしい悠莉と居ると、こっちも疑問符ばかりになる。


それでも、悠莉が好きだからやっていけてる。


「何が良いか決めかねて、今日という日が来てしまいました」


変わらず苦笑いのままの悠莉を抱き締める。
素直に預けてきた丸い頭をぽんぽんと叩いてやった。


「壮大な前フリだった」


そう言うと悠莉から笑い声が漏れる。俺もつられて笑った。


「単刀直入に言うってことをそろそろ覚えてもいーんじゃね?」

「言い訳がましかったでしょうか」

「少し。でもまあ、許す」


言いながら悠莉を後ろのベッドに押し倒す。
悠莉は衝撃に一度目を閉じたが、その後は穏やかな笑顔を浮かべる。


「達海さんにとってのクリスマスはどんな日ですか?」

「欲しい物ぜんぶ貰う日」

「……いつもと変わらないじゃないですか」

「そ。だからプレゼント用意したり、特別なことはしないんだよ」


したいことをするのに、いちいち理由を用意するほど若くない。


じゃれるように目元にキスをすると、くすぐったいのか僅かに顔を背けられる。
その反応が気に入って何度も何度も唇を落とす。


そんな行為をどのくらい繰り返しただろうか。
やがて悠莉が俺のキスを掻い潜って、甘い声以外の意味ある言葉を発す。


「せっかくのクリスマスなのに駄目ですね、私たち」


その言葉には「何で?」と聞き返さなかった。
俺の中にある答えの前では、これ以上の問答は無意味だ。


「別に俺、クリスマスじゃなくても悠莉のこと好きだし」


俺の言葉を聞いた悠莉の顔が予想通りに赤く染まる。
しばらくは言葉を紡げそうにない悠莉の口をわざと塞いでやった。



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