企画 | ナノ
つけない嘘


朝は携帯の着信音で目が覚める。


カーテンは開け放しているのに爽やかな朝日はいつも届いてこない。
雨音だって届いては来ないのに、何故かこの機械音にだけは反応してしまう。


特別なんだろうかと自問して、まさかと自嘲する。
そんなやり取りを自分の中で毎日して、常に最悪な気分で朝を迎える。


適当に朝ごはんを作って食べて片付けて。
一区切りついた所でようやく数十分前に来たメールを開く。


「……今日も同じ…か…」


いつも同じ文面なのだからわざわざ確認する必要もないのに。
我ながら本当に無駄なことをしている。それもほぼ毎日なのだから呆れる。


『今日はエイプリルフールだから何か変化があると思った』


毎日違う理由を見つけて来ては取ってつけて、期待しては裏切られ。
もういい加減やめればいいのに。


そう思う頭とは別に体はテキパキと動く。
向かない心とは裏腹によく動く足に引っ張られ、そう遠くない目的地に向かう。


インターホンは鳴らさず、随分前に貰った鍵で家に入る。
すぐに来いというメールと鍵。家主の許可は既にもらっているようなものだ。


扉を開けるとすぐに独特の香りが纏わりついてくる。
女物の香水。情事後の生々しい匂い。それら諸々が混ざった匂い。



ねえ、私達ってどういう関係?



私にメールをくれるのはどんな時で、どういう意味なの?
いつもどんな馬鹿でも気付くようにわざとしてるの?


いっぱい聞きたいことがあるのにいつも聞けない。


今日はエイプリルフールだから可愛い嘘に紛らわして一つくらい聞いてみたい。
だけど私はきっと言えない。


こんなイビツな関係でも、失うことが怖いから。


「誰か居た?」


本当は『誰かと居た?』って聞きたい。でもそれは出来ないまま。
鋭い眼光に射抜かれればもう二の句は継げない。


「俺の家なんだから俺しか居ねえよ」


嘘だよね、って言えない上手い返し方をいつもされる。


「今お前が来たけどな」


立ち上がって向こうから距離を詰められれば、私に出来ることは何もない。
もう何も見たくなくて、考えたくなくて目を閉じた。


「悠莉」


低い声で名前を呼ばれ、頬に手が添えられる。
この感覚と温度にいつまでも慣れないのは何故なんだろう。


「お前だけを愛してる」



それは嘘だよ。



その言葉にはそう返せるのに、そんな時は唇を塞がれてしまう。


「…ずるいよ」

「何が?」

「全部ずるいよ。遼くんはずるい」



きっと明日もまた、同じように流される日々が来る。





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