企画 | ナノ
一歩を踏み出す


日が経つということは期限に近付いていくということだ。
そうなると画面の片隅にある違和感が段々と存在感を増してくる。


「このテレビってもうすぐ映らなくなってしまうんですか?」


画面左下のカウントダウンやCM枠に挟まれる切り替えのお知らせ。
もはや露骨になってきたソレに、異世界から来た同居人がついに反応した。


「アナログ放送だからね」


画面右上にも書いてあるし、このテレビは間違いなくアナログ放送を受信中だ。
アナログ放送しか受信できないと言った方が正しいかもしれない。


(つーか、最近のテレビちょっとゴチャゴチャしすぎじゃね?)


お知らせで埋め尽くされて肝心の放送の邪魔になっているような気がする。
親切もここまで来ると、どこか押し付けがましく感じてしまう。


「…世良さん?」

「あ、ゴメン。ボーっとしてた」


珍しく考え込んだら悠莉ちゃんを心配させてしまったようだ。
まっすぐな悠莉ちゃんの視線を受けて、さっきまでの思考を打ち切る。


少し前までは俺が一人で暮らしてた空間に、今は悠莉ちゃんがいる。


もう一人分増えた食器とか、風呂場に置いてある女の子用のシャンプーとか。
風景の中に悠莉ちゃんの存在を感じるのが、嬉しくもありこそばゆい。


(だけどなー…)


変化を喜ぶ心があれば、変化を望まない心も当然あるワケで。


一人暮らし用に初めて買ったこのテレビにはそれなりに思い入れがある。
今まで悠莉ちゃんと一緒に見てたのだってこのテレビだ。


そんなこんなで愛着がある。出来れば替えたくない。


「チューナー買えばいいかな」


それを付ければ今のテレビのままでも地デジが見れるって聞いたことがある。
俺にとっては一石二鳥の手段。悠莉ちゃんも納得しているようだった。


「地上デジタル放送にすると、具体的に何がどうなるんですか?」


略称で言わないところが悠莉ちゃんらしい。
それを可愛く感じるのと同時に、肝心の質問の答えには少し詰まった。


(言われてみれば、具体的なことは知らないかも…)


切り替えろとうるさい割には抜けてるじゃんか、と責任は偉い人に被せておく。
今は取りあえず数少ない地デジの知識を頭の中で集めてまとめる。


「……画質が綺麗になる?」

「これ以上にですか!?」


本気で驚く悠莉ちゃんを早急に電気屋に連れて行ってあげようと決意した。


(俺は赤崎の家とかで見てるけど、悠莉ちゃんはそうじゃないもんな)


オフの日は悠莉ちゃんとのんびり過ごしたくて外出を控えてた節がある。
自分の気遣いのなさに反省していると、悠莉ちゃんが沈黙を破った。


「今以上があるなんて想像も出来ませんが、もしそうならとても嬉しいです」


その言葉通り、本当に嬉しそうに笑う悠莉ちゃん。
一緒にいる時間もかなり長くなるのに、未だに目を奪われてしまうから困る。


「試合中の世良さんをもっと綺麗に見られるんですよね」


こういう不意打ちに、目どころか全部を奪われるから本当に困るんだ。


そんな可愛いことを言われたら、こっちだって行動せずにはいられない。
今のテレビへの執着が次の行動力に変換されていくのを感じる。


「やっぱ大きい画面のやつに買い替えよっか」

「…壊れてませんよ?」

「うん。だけど決めたから」


ありったけの金をつぎ込んで高画質の液晶を買うし、次の試合も頑張る。


古い馴染みのテレビには悪いが、今回は泣いてもらおう。
悠莉ちゃんの笑顔と今までの感謝を全部やるから許してほしい。


「今からテレビ買いに電気屋行こっか」


財布をポケットに突っ込んで、もう片方の手で悠莉ちゃんの手を取った。





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -