企画 | ナノ
幸せの速度


願い事は叶いましたか?
過去の私が今の私に向けて、そう問いかけてくる。




「まだ起きてたのか?」


ベランダから夜空を眺めていたら後ろから声がした。
昔からずっと変わらずに私を子ども扱いする、大好きな人の声。


「まだ十時ですもん」

「そうだったか? でも悠莉は九時には眠くなってただろ?」

「何年前の話しですか!」


少し元気に、まるで子供のように反論する私。
それを優しく笑って宥めてくれるこの関係もずっと変わらない。


変わらない関係を少しでも変えたくて、背伸びをする。


「せっかくの七夕なのに曇ってますね」


私なりに場の空気を変えたつもりが、緑川さんは笑い出す。


「七夕なんて気にしてるところが子どもだな」


笑い混じりのその言葉に見事に図星を突かれる。
頬を膨らましたりはしないけれど、やっぱりそれなりに拗ねたくはなる。


「今はまだ子どもでもいいんです」

「そうなのか?」


大好きな人との埋まらない距離。
それは心地いい距離だから、私は子どものままでいたいとも思う。


「ゆっくり大人になってくんです」


だから、今だけは子どもなりの足掻きをする。


「私にとっての幸せはゆっくりでいいんです」


こっそりと隠し持っていた短冊を緑川さんに見せる。
緑川さんの驚いた表情を見れたから、私は少しだけいい気分。


笹もなければ、都会の曇り空には星もない。
織姫と彦星が無事に再会できたのかも知らない。


それでも、緑川さんが隣にいてくれれば、私の七夕は成立する。


『恋人として緑川さんの隣に居られますように』


こんな小さな願いを、空を越えた向こうの遠くの人にまで届ける必要はない。
隣の緑川さんにだけ届いてくれればいい。


「ゆっくり大人になってくので、緑川さんは待ってて下さい」


笹はなくとも願いは届く。短冊と言葉であなたに伝えていく。
今は私のほんの少しの背伸びを笑顔で受け止めて下さい。


「ああ、待ってる」


笑顔で頷いてくれたら、今はそれだけで十分だから。




願い事は叶いましたか?
未来の私はあなたの隣で、その問いかけに笑って答える。




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