企画 | ナノ
桜の相傘


「悠莉ちゃん、今度のオフの日は桜見に行こ!」


恭平くんに誘われて計画を立てたは良いけど、当日の天気は味方しなかった。
天気予報では一日晴天と言っていたのに昼過ぎから曇ってしまった。


それでも次の機会が来る時には散ってしまうだろうからと強行することにした。


「桜満開じゃん!すっげー!」

「うん…」


暗雲が太陽と空の青を覆い隠す。
淀んだ白色をした曇天は桜の白と混じってその輪郭をぼやかせた。


舞い散る花びらが一本道を幻想的に彩る。
それでも道の先に灰色の空が見えていてはどうしてもぱっとしない。


目の前を掠めていく花びらもやはり空の色と区別はつかなかった。


「桜って青空じゃないと映えないね」

「そう?」


言われて初めて気がついたと言わんばかりの態度で返される。
こんなに美しさが半減してるというのに、恭平くんは何を見てるんだろう。


「俺は悠莉ちゃんと一緒に見られるだけで嬉しいし!」


私の思考を読んだかのような脈絡のない台詞。
熱くなった顔を気付かれないように、私は桜を見上げるのを止めた。


(あ、桜の絨毯)


足元には散って落ちた花びらが絨毯のように広がっていた。
踏まないように歩くのが難しいくらいのソレは、空の色に関係なく美しかった。


恭平くんに教えてあげようかと思ったけど言葉にする寸前で止める。
これを見つけられたのが恭平くんの恥ずかしい台詞のお陰だと思いたくない。


「悠莉ちゃんは何で下向いてんの?」

「恭平くんが恥ずかしすぎるから」

「え、俺!?」


何かしたっけなーと呟きながら恭平くんが頭を掻く。
それを見上げた私の頬に、熱を醒ます冷たいものが当たった。


「雨…?」

「やっべ、降ってきた!」


白い花びらに隠れて透明の粒が落ちてくる。


そんなに強くはないけれど継続的に降ってくる雨粒に二人で焦る。
雨粒を防げるものは桜の木以外に何もない。


「俺、折りたたみ持ってる!」


恭平くんが慌ただしくカバンから傘を取り出して開く。
それを当たり前のように私の方にも傾けてくれて、また恥ずかしくなる。


「悠莉ちゃん、もっとこっち寄って」

「う、うん…」


お互いの肩が触れない程度に距離を詰める。
家ではこれ位の距離でいるのが当たり前なのに外だと異様に気になる。


(同じ傘に入るってこんなに恥ずかしいものなの?)


傘の中は隔絶された空間のような気がするのに、外からは丸見えだ。
上から降ってくる雨は防げても横からの視線は防げない。


(どうしてこんな時に限って恭平くんは喋らないの…!)


おまけにさっきまでは気にならなかった沈黙まで気になりだした。
色んなことに耐えかねて、私が喋った。


「…用意いいね」

「実は前に堺さんに怒られてさ。折りたたみは常に持っとけって」

「そう、なんだ…」


こんな状況でも恭平くんは普通に喋れていて悔しい。
予報にない突然の雨にも、この状況にも、私だけが慌ててるみたいで。


雨粒が沈黙を埋めるように傘を叩く。
だけど、目の前には白い桜の花びらだけが降っていて透明の雨粒は見えない。


音はするのに姿が見えない。
まるで私の恭平くんへの気持ちみたい。


鼓動はすごく速くなってるのに、言葉にしなきゃ分からない。


「恭平くん」

「なに、悠莉ちゃん」


大好きだよ。


「雨じゃなくて、散ってる桜の花びらに傘を差してるみたいだね」


本音は心の中で言うだけで、結局はいつものように逃げてしまった。
でも、風流というのもこの状況では良いような気がする。


「それって遠くから見たらめっちゃロマンチックじゃね?」

「そうかもね」

「めっちゃ見てえ!無理だけど!」


いつもと同じ反応で騒いでくれる恭平くんに少しだけ安心する。
それでも傘を私の方に傾け続けてくれる優しさに気付いたら、また照れる。


「もし見れたら俺、二倍幸せになれんのに」

「…っ!」




天気は晴れのち曇りのち雨。


桜は雨空の白と混じり、遠くからでも近くでも霞んで見える。
だけど、透明の雨粒をその白で優しく隠してくれる。


桜吹雪の中を傘を差して歩くけど、絵になる和傘じゃなくて折り畳み傘。
折り畳み傘は小さいから、肩が少し触れる度にドキドキする。


小さい二人だけの世界で交わすのは愛の言葉?
なんて、ね。




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