企画 | ナノ
甘くない


緑川さんはホットの缶コーヒーをくれて去って行きました。
今日初めてゲットした飲食可能な物だ。


鼻唄交じりで口をつけると、声を掛けられた。


「なに浮かれてんだ?」

「…堺さん」


相変わらず眉間に皺を寄せている堺さん。
ハロウィンなのに。(関係ないけど)


「あ? 文句あんのか」

「赤崎くんと言い、心を読まないで下さい」


あ、何か思い出したら腹立ってきた。
そう言えば、椿くんはまだなんだろうか…


「椿くんを見ませんでしたか?」

「すげー必死に仲見世通り走ってたぞ」


忘れていた罪悪感がぶり返す。
緑川さんに貰った幸せが小さくなっていくのを感じた。


「何だか知らねーけど、暗くならない内に帰れよ」


俯いていると、そんな優しい言葉が降ってきた。
顔を上げて堺さんを見つめる。眉間の皺はそのままだ。


「なんだよ」

「堺さん、保護者みたいです」


いくら怖く見えても、やっぱり優しい堺さん。
私は思わず笑ってしまう。


「あっ!」

「お前みたいなヤツの保護者はゴメンだ」


緑川さんに貰った缶コーヒーを掠め取られる。
そして、そのまま立ち去る堺さん。


その全部を頭で処理できないまま、堺さんの背中は消えてしまった。


「私の…コーヒー…」


飲みかけだったのに。
堺さんが話しかけるから全部飲めなかった!


手にほんのり残っている温かさが余計悲しい。
逆に、口にほんのり残る苦さが、この世の厳しさを物語っていた。



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