企画 | ナノ
休日の暇つぶし
「遼くん、今日が何の日か分かるかな?」
せっかくの休日に家で寛いでいると同居人がうるさく邪魔をしてきた。
「随分な説明なんですけど」
「事実だろ」
悠莉は一応同棲している恋人だが、こうなるとただのうるさい同居人だ。
そんなヤツに付き合って貴重な時間を無駄にすることはしたくない。
「それでそれで、何の日でしょうか?」
「テンションがうぜえ」
「そう言わずに付き合ってよ」
引っ付いてこようとする悠莉の頭を押さえて一定の距離を保つ。
だけど悠莉が退く様子はない。
(仕方ねえ、二分だけ付き合ってやるか…)
このままの膠着状態でいる方が長引くことは経験で分かってる。
結局いつもこうなる気がするが、多分気のせいだろう。
「では改めまして、今日は何の日でしょうか!」
「春分の日だろ」
壁に貼ってあるカレンダーを見ると今日の日付は赤色で記してある。
悠莉は俺の返答に待ってましたとばかりに食いついてきた。
「正解!じゃあ具体的に何の日かは分かる?」
「だから春分の…」
「春分って何が起こるか知ってる?」
「昼と夜の長さが同じに…」
「不正解!本当は昼の方が長いんだよ」
ただでさえうざったいテンションにこのノリは相当腹が立つ。
悠莉の頭を本気で殴った。
「ウィキ●ディア情報でえばんな。うぜえ」
俺は時間を無駄にするのが嫌いだし、言葉を遮られるのも嫌いだ。
それをダブルで実行しやがる悠莉に愛想を尽かして俺はその場を後にする。
「待って遼くん!まだ話しは終わってないよ!」
「俺の中では終わった」
「なにその某世紀末漫画みたいな台詞!」
「うるせえ」
「現代っ子!かっこつけ!変な髪形!」
俺の背中に向かって叫ぶ悠莉の悪態のレパートリーは小学生並だ。
あまりの貧弱さに同情して足が止まった。
「今日は特にうぜえぞ。一体何なんだよ」
振り返ってやると悠莉が目を輝かせた。
しまったと後悔した時にはもう遅く、腕に引っ付かれていた。
「春分の日は祝日法では『自然をたたえ、生物をいつくしむ』日なんだって」
ワケ分かんねえ。
コイツは何を言いたいくて俺をこんなにイラつかせるんだ。
「だから何だよ」
「だから、遼くんが私をいつくしんで下さい」
「はあ?」
企みは分かったがそれでも意味分かんねえ。
コイツ、勤労感謝の日か何かと勘違いしてんのか?
(つーか、そんな下らねえこと言う為に俺をこんなにイラつかせたのかよ)
最初から下らないことだと言うのは分かっていたが、腹が立つ。
(ん?待てよ…)
同居人だろうと恋人だろうと一応は悠莉も生物に分類される。
加えて、いつくしむという言葉。
とてつもなく冴えた仕返しを思いついた。
「お前をいつくしめばいいんだな?」
「うん!」
勘違いしたままの悠莉から言質を取る。
俺は一度屈んでから、腕を掴み続けている悠莉を横抱きにした。
「わわっ…な、なに?」
「いつくしんでやるんだよ」
クエスチョンマークがいくつも飛んでいるような顔で見上げられる。
「お前、いつくしむって言葉の意味わかってねえだろ」
そう付け足してやっても悠莉の表情は変わらない。
だが、ベッドに乱暴に下ろしてやった時は流石に焦ったものへと変わった。
「遼くん…あの…」
「終わってから辞書引け」
下らねえ提案をして、最後には自分自身の首を絞めた、全ての元凶である口をキスで塞いでやった。
最初に決めた制限時間の二分はとっくに過ぎている。
こうして俺の休日は恋人によって潰されていく。
【慈しむ】
かわいがって大事にする。類語→愛玩。愛でる。