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王者の節分【前編】


「王者は果たして豆まきでも王者でいられるのか…」


ざわつくロッカー室で凛と響いた声に視線が集まる。


もちろん『何でこの人ここに居るんだろう』という視線だ。
しかし、当の本人はそれを気にする様子もなく言葉を続けた。


「常勝軍団ヴィクトリーは節分でも健在ですよ!」


元気に宣言して、鬼の面と豆まき用のセットを俺達に見せつける。


着替え中の俺達に。


これが初めてではないので、いちいち驚くヤツもいない。
それくらい日常化しているのも問題だと思うが。


「豆まきの王者って何ですか?」


誰か突っ込まないと話しが進まない。
早く出て行ってもらう為にも、俺が口を開いた。


「お、三雲くん。やる気だね」


変な風に取られてしまった。
その上、俺の疑問は上手に無視された。


それが天然なのか計算なのかは未だに謎だ。


「堀くんのキャラがいつまでたっても掴めないから豆を掴もうか」

「……!」


悠莉さんのその一言で雰囲気が一気に険悪になる。
本人は乗せようとしてるんだろうけど、明らかに逆効果だ。


「レオナルド!豆まきの動きはサンバ習得に効果的だよ!」

『……?』


言葉も文化も通じないのに、どうして普通に話しかけられるんだこの人は。
しかも言ってることが全くのデタラメだ。


段々とロッカー室が呆れと怒りに満たされていく。




「面白そうじゃん」




収集がつかなくなりそうな所で王様の一声が発せられる。
その一言に、ざわついていた室内が静まり返った。


持田さんは立ち上がり、ゆっくりと悠莉さんに近付いた。


「鬼を捕まえたら何しても良いってルールならやってやらなくもないけど?」


(((お、おいー!)))


ロッカー室にいる約七割の選手の心の声がハモった気がした。


「何ですかそのルール?」


(((気付いてない!?)))


これまた、心の声がハモった気がした。
きょとんとしている悠莉さんはやっぱり天然だ。


「豆まきと鬼ごっこは違うんですよ、持田さん」


誰もが一目置く持田さんに言い聞かせるようにする悠莉さん。
見てるコッチがハラハラする。


「お前、俺が区別ついてないとでも思ってんの?」

「違うんですか?」

「俺が言ってんのは…」

「今回は悠莉に付き合ってやろうじゃないか」


流れが危なくなりそうな所で城西さんが口を挟んだ。
さすがキャプテン、ナイスセーブだ。


「季節のイベントでチームの絆を深めるなんて乙だろ」

「城西さん!さすが優等生!」


悠莉さんが城西さんに抱きつく。
城西さんはそんな悠莉さんをさり気なく引き離した。


「では鬼を決めましょう!」


鬼の面が高々と掲げられる。
すると、持田さんがソレを奪って悠莉さんの頭に乗せた。


「お前が鬼な」

「え」

「お前が一番ぶつけやすいし」

「ぶ、ぶつけ…?」

「ほら行くぜ。5、4、3…」

「うわああん!」


悠莉さんが走ってロッカー室を出て行く。
持田さんはその背中をきっちりと見届けてから俺達に向き直った。




「全力でやるぞ。アイツ見つけたら本気で豆投げつけろ」




試合の時と同じ目でそんな事を言われた。
誰一人、それが冗談とは思えなかった。


「廊下に散らばるとケガの危険とかあると思うんですけど…」

「アイツに豆当てんのに走る必要とかないだろ?」


回避の手段は一瞬で断たれた。


「掃除もアイツにさせっから。そこら中に撒いとけ」


悪魔だ、この人。


持田さんが悠莉さんの残していった豆まき用の豆を適当に分配していく。
俺も自分の分を受け取りながら、悠莉さんの身を案じた。




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