企画 | ナノ
一月一日


話の流れで悠莉と初詣に行くことになった。


0時にクラブハウスで待ち合わせをして、今はその少し前。
俺の姿を見つけて走り寄って来る小さな人影が見えた。


「遅れましたか?」

「いんや。ぴったりだ」


時計は持ってないけど何となくで返事をする。
悠莉はそれに気付いたようで苦笑した。


「達海さん、新年おめでとうございます」

「うん」

「今年も宜しくお願いします」

「おう」


形式的な挨拶を済まして、俺達は目的地へと歩き出す。


悠莉の足取りはいつもより弾んでるように感じる。
これから人混みに行くってのに呑気なヤツ。


「…不思議な感じですね」

「何が?」

「達海さんは初詣とか行かなさそうなイメージがあったので」


そりゃそうだ。
あの殺人的な人混みに自分から飛び込むなんて自殺行為だ。
熱心な仏教徒でもないし、『何となく』に流される元気もない。


俺一人なら間違っても行かない。
行くとしてもピークが過ぎてからこっそり行く。


なのに今は悠莉と一緒にそこを目指してる。
俺だって不思議だ。


(つーかお前も行かなさそうじゃん)


そう言おうかと思ったけど止めた。
だって隣の悠莉があまりにも楽しそうだったから。


何だかむず痒くなって、ポケットに入れた両手を突っ張った。


「寒いですか?」

「そりゃあね。冬だし」

「もっと厚着した方が良いですよ」

「どっちかっつーと顔が寒ぃ」

「…顔ですか…」


少し悩むような素振りを見せる悠莉。
悠莉は俺と違って完全防備だ。


「あ、そうだ」


思いついたように悠莉が呟く。
手袋の片方でもくれるんだろうかと思ったが違った。


俺の両頬は手袋をした悠莉の手に包まれた。


「どうですか?」


少し背伸びをした悠莉が笑顔で聞いてくる。
手袋は冷えてるけど、それ越しに伝わる悠莉の体温が暖かい。


「あったけぇ」


いつまでもこのままでいたくなる。


俺も同じように悠莉の頬に手を伸ばす。
冷えた手で触るのは迷ったが、そっと撫でると悠莉は目を細めた。


(あ、やべ…)


あまりの可愛さに、目的を忘れて欲望に負けそうになる。
初詣なんかやめて悠莉を独り占めしたくなった。


(けど、あんな嬉しそうにされるとな)


先程までの悠莉の様子を思い出す。
それで辛うじて踏み止まった。


俺は頬に添えられた悠莉の手を引く。


「ペース上げるぞ。着きそうにねぇ」

「は、はい!」


悠莉は軽い足取りで俺の後について来る。


(帰ったら覚悟しとけよー)


俺がそんな事を考えているのは伝わりそうもなかった。



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