企画 | ナノ
大人になる君へ


テレビでは全国各地の成人式の様子が報道される。
外を歩けば、着物姿でキャッキャと浮かれる新成人とすれ違う。


(若いってのはいいねェ…)


あんま浮かれんなよと背中でも叩いてやりたくなる。
もっとも、このご時世でそんなことしたら不審者扱いだ。
冷たい時代になったモンだ。


「あ、笠野さーん!」


そんな中で自分を呼ぶ声が聞こえる。
着物でぴょこぴょこと跳ねる悠莉は世間の冷たさとは無縁だ。


「おう、似合ってんな」

「大人に見えますか!?」


喋んなきゃな。
そう思ったが、めでたい日にそんな言葉は引っ込めた。


「悠莉、ウチらもう行くね」

「うん。またね」


友人であろう二人組が悠莉に挨拶して去っていく。
悠莉は笑顔で見送った。


「良かったのか?」

「はい」


成人式は成人を祝うと言うより、同窓会を兼ねた意味合いもある。
懐かしい友人に会ったりもするだろう。


それでも悠莉は、いつでも会える俺を選んだ。




「今日は笠野さんがお酒をご馳走してくれる約束ですから!」




悠莉のことは赤ん坊の頃から知ってる。
何故か俺によく懐いていて、何かをせがまれる度に誤魔化してた。


『二十歳になったら好きなだけ酒奢ってやるよ』


昔は悠莉が成人になるなんて想像も出来なかった。
子供はいつまでも子供のままだと思ってた。


だが、今はどうだ。


立派に成人を迎えた悠莉が目の前にいる。
艶やかな着物を着て、あどけなさを残す顔で微笑む悠莉がいる。


子供の頃の面影を残しながらも、しっかりと成長している。


「時間ってのは怖ェな」

「え…?」

「今日まであっという間だったぜ?」


まあ、言っても分かんねえだろうけどな。


この感覚はきっと悠莉が子供を持った時に分かるんだろう。
…って、それも想像できねえな。


「…私には長く感じました」

「そうかい」

「でも、今日ついに叶うんですよね!」


嬉しそうに笑う悠莉はやっぱり幼く見える。
俺がごまかしに言ってた台詞を真に受けてるのも子供だ。


それを微笑ましく思う俺は、もう立派な年寄りだ。




「こんな可愛いお嬢さんを貰っていいのかね」


今日みたいな特別めでたい日に、親戚ですらない俺みたいなヤツが。


「何か言いました?」

「いいや、言ってないぜ」

「…そうですか?」

「おうよ」


慣れない下駄で歩きにくそうな悠莉に手を差し伸べる。
昔から変わらない、温かい手が重ねられた。




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