企画 | ナノ
うらはらクリスマス
吐息が目に見えるほど寒い季節。
色めく街と浮き足立つ人々。
「悠莉ちゃん、メリークリスマス!」
例に漏れず元気な人が帰宅。
右手にはこの季節すっかり見慣れた箱を持っている。
「それは?」
「クリスマスケーキ!」
分かりきった答えが返ってくる。
私は頭を抱えた。
「そんなの食べて良いの?」
もう若手じゃないのに未だに食事管理が出来てない恭平くん。
じっと見つめると目を逸らされた。
「まあ…今日くらいは」
どうしてもケーキは食べたいらしい。
*** *** ***
何故か恭平くんがコーヒーを淹れてくれる事になった。
ケーキが乗ったお皿を眺めながら待つ。
普通のショートケーキにちょこんとサンタの砂糖菓子が置かれている。
いかにもクリスマスな仕様だ。
テレビや街で見るようなのと一緒だ。
私も恭平くんとちゃんとクリスマスしてる。
イベント事は嫌い。
何も考えずに流されるのも嫌い。
でも、恭平くんはそれが嫌いじゃないみたい。
私も恭平くんと一緒なら嫌じゃない。
そんな自分の勝手さに呆れもするけど。
「お待たせ。食べよっか!」
目の前に湯気を立てるティーカップが置かれる。
中には自分を映す黒いコーヒー。
「どうかした?」
「…ううん」
ミルクも砂糖も用意されていない。
出会った時から変わらない詰めの甘さだ。
そんな不器用な私達だからこそ、寄り添うと暖かいのかもしれない。
「ケーキありがと。コーヒーも」
カップを片手にお礼を言う。
恭平くんは感情を隠さない子供のような笑顔を見せた。
「プレゼントもちゃんと用意してあるから!」
「ケーキじゃないんだ」
「後で渡すから楽しみにしてて!」
子供相手みたいな予告。
それでも気持ちは充分に伝わってるから笑顔で頷く。
こんなに嬉しくしてくれる恭平くんと一緒だから。
クリスマスも悪くないよ。
恭平くんからのプレゼントを密かに期待しながら甘くないコーヒーを飲んだ。