企画 | ナノ
ありがとうの気持ち


「ふぅ…」


ビデオを止めて凝り固まった首を回す。


次の対戦相手のビデオを延々と見続けるこの作業。
監督にとっては重要な仕事だが、身体には優しくない。


けれど、それも全てチームを勝利に導くためだ。
相手の癖や弱点を見抜き、作戦を立て、それが嵌った時の爽快感。
今の作業の肉体的な疲れを見事に変換できる瞬間がある。


「あと一息だ…」


一時停止したビデオを再生しようとリモコンを手に取ったその時だった。


「お疲れ様でーす!」

「うわぁ!?」


扉を勢いよく開けた音と元気良い声が同時に響く。
半分寝ぼけていたせいもあって、椅子からずり落ちてしまった。


「大丈夫ですか?」

「悠莉…一体何なんだ…?」


差し伸べられた悠莉の手を握る。
悠莉は僕の手を引っ張って立たせてくれた。


「作中で一番働いてるであろう認定された佐倉監督です!」


僕と悠莉以外は誰も居ないのに、まるで紹介するような台詞だ。
内容的には僕自身も初耳だ。


転んだ衝撃でずれた眼鏡を掛けなおす。
よし、だんだん調子が戻ってきたぞ。


「悠莉、話なら後にしてくれ。今は対戦相手の分析中なんだ」


悠莉にはいつも振り回されるからはっきり言わないと。
それでも目の前の悠莉は笑顔を崩さない。


「今日は邪魔しに来たんじゃないですよ?」

「い、いや…邪魔とは言ってないけど…」


ああ、ダメだ。
そんな可愛く覗き込まれたら甘やかしたくなる。


途端に弱腰になる自分に呆れる。
これがいつも悠莉に振り回される原因なんだ。


「今日は勤労感謝の日ですから」


悠莉の言葉にはっとする。
慌てて時計を見てみると、もう日付が変わっていた。


「もう時間がないじゃないか…!」

「そんなワーカホリックな監督にプレゼントです!」


悠莉が僕の言葉を遮るように台詞をかぶせる。


分析中にとったメモにも構わず、机に何かをどんと置く。
風呂敷に入ったそれはとても重そうな音がした。


「開けてみてください!」

「あ、ああ…」


言われるままに風呂敷を開く。


「これは……!」


プロテイン ×30

オルナミンC ×20

リポビタンD ×20

青汁 ×15

救心 ×10


などの夥しい数の健康食品(?)が姿を現した。


目の前に居る悠莉は満足気に微笑んでいる。
どうやらいつもの悪戯じゃなくて本気らしい。


「あ、ありがとう、悠莉…」

「お仕事頑張って下さい!」


目を輝かせられれば、こちらとしてはもう何も言えない。


死ぬまで働けって事なんだろうか。
いや、ここは純粋な厚意だと信じよう。


僕は貰った栄養ドリンクを一本開けて、作業に戻った。



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