妹変 | ナノ
半ドンとか今時きかない


朝日でもなくケータイのアラームでもなく自然に目が覚める。


「夢か……」


靄がかかってるんだかスッキリしてるんだか分からない頭で状況を理解する。
そんな日の寝覚めは決まって最悪だ。


「顔洗いに行くか…」


意思を口に出さないと実行できないくらい陰鬱な気分。
まるで布団でも引き摺っているかのような重さを感じながらも足を動かす。


それよりかは軽く感じた洗面所の扉を開けると、意外な人物が居た。


「鏡花…」

「おはよ、兄さん」


夢で見た鏡花がそのまま成長したような仏頂面だった。
それがまた俺の知ってる妹らしくて逆に安心する。


(鏡花は挨拶程度じゃ笑わないヤツだった。そうだった)


しかし、同じ家で生活しているがそんな挨拶を聞くのは久し振りだ。
更に鏡花が制服なんて着てるから驚く。


「学校行くの?」

「うん、今日は半ドンだから。出席日数も稼ぎたいし」


色んな意味で女子高生の台詞じゃない台詞を平気で吐く妹。
多少状況や格好が違ってもいつも通りだ。


それがいつから『いつも通り』だったのかは分からないけど。


「鏡花はさ、何で俺のこと兄さんって呼ぶの?」


鏡を見ながら髪型を整える鏡花に聞いてみる。
俺にとっては理由があっても、鏡花にとっては何の脈絡もない質問。


それでも鏡花は手を止めることなく、視線もこちらに寄越さずに答えた。


「兄さんは兄さんだからでしょ?」

「前はお兄ちゃんって呼んでたじゃん」


俺がそう返すと鏡花の手が止まった。
その次に、怪訝というか蔑むような目で俺を見てくる。


「…何だよ」

「さすが私の兄。濃いね」

「ちげーよ!」


気付けばさっきまでの陰鬱な気分なんて忘れて反論していた。
そんな俺に、鏡花は今日初めて笑顔を見せた。


だからきっと騙されたんだ。


「前にも言ったけど、お兄ちゃんだとエロゲっぽいでしょ?」


言われてみれば、何かの会話の中でそんなことを言ってたような記憶がある。
俺と鏡花に共通の記憶があるということが分かって安心した。


すごく安心して、力が抜けた。


「鏡花」

「なに?」

「ちゃんと勉強してこいよ」

「うん」


いつの間にか笑顔から無表情に戻った鏡花が素直に頷く。
それに違和感じゃなくて安堵を抱いてしまったから気付けなかったんだ。


鏡花が呼び方を変えたのは美少女ゲームをやりだす前だ。
妹がウソなんかつくわけないって思い込みで、俺はそれに気付けなかった。


なあ、いつから本当のこと言わなくなった?




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