妹変 | ナノ
門限は17時です。
幼い頃の思い出というのは美化されるんだろうか。
「鏡花、外行こう外!」
「うん」
小さい時は鏡花とよく近所の公園で遊んでた。
同い年の友達とも勿論遊んでたけど、それと同じくらい鏡花とも遊んだ。
今じゃその欠片もないけど、当時は仲の良い兄妹として有名だった。
「おし!じゃあ次は…」
「お兄ちゃん、もう六時だから帰らないと」
「げっ…マジか」
関係性みたいなものは今と変わらなかった気がする。
鏡花は今と同じで冷静な子供だったけど、俺にまだ付き合ってくれてた。
そういや昔はお兄ちゃんって呼ばれてたっけ。
鏡花にそう呼ばれる度、小さいながらも責任感が芽生えたもんだ。
兄貴の俺が妹の鏡花を守るんだ、って。
恐い番犬からも、よく怒鳴る近所のカミナリおじさんからも、他にも色々。
当時の俺が思いつく、不幸の代名詞と成り得る全てから守ると決意していた。
「お兄ちゃんはガ●イエローより強い?」
「何でピンポイントなんだよ。しかもイエロー」
あの頃は同じ番組見てたから会話も普通に出来てたな。
それにしても、伏字で喋るのは昔からだったか。
「鏡花の兄ちゃんだから強い!」
「ふーん…?」
「あ、信じてないだろ!」
「だってよく分からない理屈だったから」
こうして思い出すと、昔も今もやり取りそのものは変わってない気がする。
兄として妹を守る決意だって変わってない。
じゃあ、何が変わったんだ?
俺が変わったのか?
それとも鏡花が変わったのか?
ずっと昔のままなんて不自然だし有り得ないんだけど、分岐点はいつだった?
それが全く思い出せない。
時間が緩やかに変えていったとも思えないから厄介なんだ。
「だったら、お母さんに怒られるのはお兄ちゃん?」
「それは一緒!」
そんな会話をしながら夕暮れの帰り道を歩いた俺達はどこに行ったんだろう。
今の俺達とは別人なんだろうか。
「俺は兄ちゃんだから鏡花を守るけど、これはれんたいせきにん」
「お兄ちゃん、漢字変換できてない」
でも、俺は覚えてるんだ。
どんなにたくさんの日々を積み重ねても忘れる事はない。
二十何年と積み重ねてきた毎日の中でも一際輝く、妹との思い出。