妹変 | ナノ
決戦はマージャンで!
ことある毎に赤崎が家に来るようになった。
最初は俺も妹も抵抗があったが、今ではすんなり受け入れてる。
「ただいま」
「おかえり…って、またその人…」
「文句あんのかよ」
「大ありです」
訂正する、受け入れてたのは俺だけみたいだ。
この二人の仲は険悪なままだ。
「落ち着けって、鏡花」
「兄さんは何でこの人を連れてくるの」
「それは…来るって言うから」
ちらっと赤崎を見ると睨まれた。
あれ、俺先輩なんだけど。
「それって本人の前でする会話なんスか?」
最もなツッコミが悔しかったのか、鏡花はこっちから視線を外した。
(ホント相変わらずだなこの二人…)
間に挟まれて苦悩する俺のポジションも変わらない。
そして、そこに今日はもう一人。
「誰ですかあの人」
「…鏡花の友達」
「はあ? 歳違いすぎじゃないッスか」
「俺も詳しくは知らねーよ!」
ちょくちょく家に現れる鏡花のオタク友達のおじさん。
思えば名前すら知らない。
「ユニ●ンの新作どう思いますか?」
「評価は高いよね」
「でも前作が鬱だったじゃないですか、だから手が出なくて…」
「批●空間は見た?」
「毎日チェックしてますよ!」
横にいる俺達お構いなしの濃いトークも久し振りだ。
要するに、俺の周りの人物相関図みたいのは何も変わってない。
それに安心してしまうのは何でなんだろう。
「アンタ、コイツの何なんですか」
安心した矢先にいきなり壊すヤツがいたのを忘れてた。
ついさっきまで隣にいた赤崎がいつの間にか二人の近くにいる。
「…鏡花ちゃん、この人は?」
「見ての通り不躾で失礼な人ですよ」
「それはお前だ」
「あなたのことです!」
普段は冷静な妹が赤崎と話す時だけは熱くなる。
おかげで話しが進まない。
俺は小さく溜息をついてから三人の元へと歩み寄った。
「鏡花、落ち着けって」
「リア充を目の前にして落ち着けるオタクはいない!」
「隣のおじさんは落ち着いてるじゃん」
「おじさんは悟り開いてるから!年の功だから!」
確かにこの状況で笑顔を崩さないおじさんを見てると一理ある。
月日が経てば鏡花も落ち着いてくれるんだろうか。
(そう言えば…)
今日も当たり前のようにこの時間帯に私服で家に居る妹。
思うところがないでもないが、言葉には出さないでおこう。
「今日も学校行ってねえのかよ」
俺が胸にしまったはずの台詞がはっきりと聞こえた。
俺は口を開いてない。腹話術でもない。
(だから何で余計なこと言うんだお前はー!)
俺の隣でふてぶてしい顔をする赤崎を睨む。
それが間違いだった。
妹のフォローに回っていれば、最悪の事態は回避できたのに。
「…分かりました」
「何がだよ」
「あなたとは何かしらの決着が必要だということです!」
それまで座っていた鏡花が机に両手をついて立ち上がる。
そしてリビングの片隅に置かれている雀卓を指差す。
あれ、今朝までなかったよな?
「エロゲオタクらしく、マージャンで勝負です!」
ええええええええ。
「な、ちょっと鏡花…」
「兄さんは黙ってて!」
辛うじて出た制止も高圧的に跳ね除けられた。
「それじゃお前有利じゃねえか。こっちのメリットは?」
「最下位の人がトップの人の言うことを何でも聞く…というのはどうです?」
「悪くねえな。ノッてやる」
さっきまで1mmも進まなかった話しがとんとん拍子にまとまっていく。
だから、お前ら本当は仲良いんだろ。
「夜中の本屋にBL本とか買いに行かせてあげますよ!」
何だそりゃ。
「兄好ネタだねえ」
あれ、解説要員?
「それより負けた時の心配してろ」
お前は何をさせるつもりだ。
「やるよ兄さん!」
「俺!?」
知らず知らずの内に俺もカウントされていたらしい。
さっきは黙れとか言われたのに、あんまりだ。
「この人との戦いにこれで終止符を打つ!」
「負け逃げかよ」
「勝ち逃げです!」
どっちにしろ逃げなのか。
そんなツッコミを入れる余裕もないほど、俺は既に疲れていた。