妹変 | ナノ
おしえて兄さん!
今日は試験最終日だった。
終わってからまっすぐ家に帰ってきたけどすることがない。
昨日までは夜通し勉強してたのに。
「ヒマだな…」
とにかく時間が余ってしょうがない。
眠いんだけど寝ようって気分にもならない。
終わった安心感とか。思ったより出来て興奮してたりだとか。少しの不安とか。
色んな感情がごちゃ混ぜで、そのせいで頭が今更フル回転してる。
しばらく経った今も全然治まってない。
「ココア飲もうかな」
気持ちを落ち着かせる一番の方法。
たまには自分で作ってみるのもいいかもしれない。
ベッドに寝そべっていた身体を起こしてキッチンに向かった。
*** *** ***
「なんか違うな…」
ちゃんと書いてある通りの手順でやってるはずなのに。
久し振りに自分で作ったココアは、兄さんが作ってくれるのと何かが違う。
美味しくないってワケじゃない。
ただ、兄さんが試験勉強中に差し入れてくれたココアはもっと美味しかった。
「ただいまー」
「!」
突然リビングの扉が開いてそんな声がする。
全然気が付かなかったから少しびっくりしてしまった。
「あ、鏡花。試験どうだった?」
「…うん…」
せっかく頭がココアに切り替わりつつあったのに。
兄さんの一言でまたぶり返す。
「どうかした?」
「…兄さん」
自分で作ったココアの入ったカップを置いて兄さんを見つめる。
兄さんは不思議そうに私を見ている。
「鏡花?」
「ココアの作り方おしえて」
自分でも相当不自然な提案だったと思う。
だって私は今の今まで自分でココアを作っていた。
その証拠にリビングには甘い香りが充満しているし、カップだってある。
「おっし!片付けてくるからちょっと待ってて」
なのに、兄さんは快く引き受けてくれた。
*** *** ***
「これはスプーン3杯な」
「うん」
「そんでお湯入れて溶けるまで混ぜる!」
「へー…」
兄さんが説明しながら慣れた手つきで作ってくれる。
それは本当にあっという間で。
気付いたら目の前には湯気を立てるココアがあった。
「これでわかった?」
「うん。ありがと」
兄さんからココアの入ったカップを受け取る。
ほんのり温かくて甘い香りがするそれは、気分を落ち着かせてくれた。
(いつものココアだ…)
この前、兄さんが私を励ます為に作ってくれたのと同じ。
作ってくれた兄さんの気持ちが同じだ。
だからこんなに美味しく感じる。
「あのね、兄さん」
「ん?」
試験の後って色んなこと考える。
自己採点の結果が良くても、もしかしたら解答欄ずれてるかも、とか。
こう回答したと思うけど、実はそうじゃなかったかも、とか。
どうしようもない不安だって思うけど、自分じゃどうしようもない。
「試験なんだけどね」
もし失敗してても、兄さんはずっと隣に居てくれる。
でも、やっぱり兄さんに喜んでほしいから。
自分は出来たって信じることにする。
「自信あるよ」
「…そっか!」
テストがいい結果でありますように。
ココアは、自分で美味しく作れなくてもいいから。