妹変 | ナノ
睡眠、足りてる?
平日の午前中だってのに、妹は家にいる。
「うーん…」
いつもと違うのは、鏡花がテレビを占領してないってとこだ。
テーブルに突っ伏すようにして何かの本を読んでいる。
「それ何の本?」
話しかけると鏡花は顔を上げる。
その目の下には、睡眠不足なのかクマが出来ていた。
「…寝てないの…?」
「寝れるわけないでしょ!」
鏡花が本を机に叩き付けるようにして勢いよく立ち上がる。
が、すぐにまた机に突っ伏した。
いつものパターンに入るかと思って構えたのに。
「元気ないな?」
「うー…」
「徹夜したのか?」
「うん」
「ちゃんと寝ないとダメだろ」
あ、俺すごく兄貴っぽいこと言った。
鏡花がいつもみたいに反撃してこないから余計だ。
これが普通の兄妹なのか。
「はあ…眠い…」
こっちが感慨にふけってる間も元気がない鏡花。
俺は鏡花が読んでいた、今は机の上に放置されている本に手を伸ばした。
本のサイズは大きめで結構な重さがある。
その内容はカバーがかかっていてわからない。
変な本じゃないことを祈って、俺はその本を開いた。
「マージャン…?」
パラパラと最後まで見てみる。
俺自身マージャンに詳しいわけじゃないが何となく分かる。
これは多分、初心者向けの説明本だ。
「あの…鏡花?」
「なに」
「マージャンやるの?」
別にいけないことってワケじゃない。
新しい趣味を始めるのはいいことだし、兄貴として応援もしてやりたい。
けど、それがマージャンってどうなんだ。
それってオジサンがやるものなんじゃないのか。
もしくは家族ぐるみでとかさ。
ウチでマージャンやってるヤツなんていない。
当然、俺も出来ない。
「ずっと後回しにしてきたけど、そろそろ向き合わないと」
何かの漫画に出てきそうないい台詞。
絶対に使いどころを間違ってる。
「麻雀はエロゲーマーの必須スキルなんだよ」
やっぱりそこから始まったことだったか。
納得するんだけど、それ以上にやるせない。
「エロゲのミニゲームと言えば麻雀」
「…そうなの?」
「ファンディスクなどに多用される手です」
そう言って、鏡花は力なく立ち上がる。
「小雪さんのバニー姿がかかってるのに寝れるわけない…」
鏡花がフラフラと歩き出す。
たまに壁にぶつかりながらも歩みを止めない。
「鏡花、大丈…」
「平気」
睡眠不足で元気がないはずなのに、その妙な迫力は衰えない。
俺は鏡花の背中を見守るしかなかった。