妹変 | ナノ
ブラザーコンプレックス


俺の手は振り払った。
世良さんの手は受け入れた。


兄妹とかハンデありすぎだろ。


「……くそっ…」


アイツに振り払われた右手を眺める。


何で俺は、あんな脆弱な反撃を喰らってやったんだ。
どうして離したんだよ。


(あからさまに嫌そうな顔しやがって…)


別にそれで良かった。
そんなヤツだから興味を持った。


問題はその後だ。


アイツは世良さんとは普通に話す。
自分から近付いてくみたいだし、触られても気にしてない様子だった。


顔でも赤らめれば『ブラコン』の一言で済ませられたのかもしれない。
そうなれと思うくらい、あの兄妹のやり取りは普通だった。


その普通が、俺と世良さんの差を嫌ってほど思い知らせる。


「アイツどこ行ったんスか」

「…分かんねーよ」


世良さんが床に落ちたケータイを拾う。
ソレについた大量の妙なストラップが小さく音を立てた。


「心配じゃないんスか」

「心配に決まってんだろ」

「行った場所の心当たりくらいはあるでしょ」

「ねえよ。つーかお前が原因だからな」


溜息混じりじゃどんな嫌味も効果がない。
この人はホントお人好しだ。
だから腹が立つ。


物分りのいい兄貴みたいなフリやめろよ。
俺にはできねーんだから。


アンタが仕方なくやってることは、俺にはどうやったって出来ない。


嫌味なんて言えないくせに、その態度は俺にとって嫌味になってる。
目の前のこの人は多分そんなことも分かってない。


だから俺はこの人に勝ってる自信があるのに。


「取りあえず、茶でも飲む?」

「そッスね」

「何で偉そうなんだよ…」


年上のクセに威厳ないし、背だって俺より低い。
電話を持つその右手は俺と大して変わらないようにも見える。


(この人と俺と…何がそんなに違うっつーんだよ)


浮かんだ見当はずれの疑問に頭をかかえる。
軽く頭を振って思考を散らす。


(どうしたら俺は、俺のままでアイツに近付けるんだ)


アイツの温度がまだ少し残っている右手を強く握り締めた。




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -