妹変 | ナノ
携帯戦争
「もう良い。私が出てく」
鏡花が赤崎を避けて部屋を出る。
扉付近に立っていた俺は、携帯を取り出す鏡花と目が合った。
鏡花が開きかけた携帯を閉じて、無言でこっちに来る。
オーラが怖い。
(これってもしかして俺が怒られる流れなのか!?)
理不尽極まりないが、理由が思い当たらないワケでもない。
仕方ないと腹を括った。
「どうして連絡くれなかったの?」
まだ部屋の中に居る赤崎への配慮なのか、鏡花は小声で喋る。
それでも嫌にはっきり聞こえたのは怒りからなのだろうか。
思わず溜息をつくと鏡花に睨まれた。
(お前に事情があるのと同じで、俺にも事情があるんだよ…)
鏡花が手にしている携帯を奪うようにして取る。
そしてアドレス帳から俺の携帯に電話をかけた。
『〜〜〜♪』
鏡花の部屋から俺の携帯の着メロが鳴る。
正確には、赤崎の鞄の中から。
「こーいうこと」
「…わかった」
苦い顔をした鏡花に携帯を返す。
鏡花は面倒くさそうに携帯を開いて何かを打ちだす。
何故だか、いつものおじさんの顔が浮かんだ。
「あ!」
突然妹が短い悲鳴を上げる。
何かと思うと、後ろに居る赤崎に携帯を取り上げられてた。
「赤崎…?」
驚く俺達兄妹を他所に、鏡花の携帯と自分の携帯を合わせてる。
そして?マークを飛ばす妹の手に携帯を戻した。
「俺のアドレス入れといたから」
「…はい?」
携帯が鏡花の手をすり抜けて床に落ちる。
かつて無いほど気まずい雰囲気の廊下にその音はよく響いた。
「メール送れよ」
「誰があなたなんかに…!」
「年長者への礼儀」
それをお前が強要するのか。
心の中ではそう突っ込むけど直接はとても言えない。
この二人の間には何か入りにくい。
入らなくても挟まれてるから、結局とばっちりは食うんだけど。
「〜〜っ!!」
鏡花は床に落ちた携帯もそのままに家から出てった。
(どこ行ったんだろ…)
全くの手ぶらで出て行った妹が心配になる。
だけど、そればかり気にしてる訳にもいかなかった。
「…………」
「…………」
赤崎と二人になった廊下には、さっきより気まずい空気が流れていた。