妹変 | ナノ
笑顔がこわい


複雑な気持ちを抱えたまま家に帰る。


「ただいまー…」

「おかえり」


すぐ近くから声が聞こえた。
顔を上げると目の前に仁王立ちの鏡花が居た。


「うわあっ!?」


反射的に後ろへ下がる。
だけどすぐ後ろの扉に背中が当たる。


その冷たい感覚が、逃げ場はないと静かに語っている。


「鏡花、落ち着け。なっ?」

「…兄さん」


全身から発せられるオーラは数十分前と大して変わってない。
どうやらクールダウンは無理だったようだ。


「あれには深い訳があって…」

「兄さん」

「は、はい…」


泣く子も黙らせられそうな雰囲気を纏ったままの鏡花。
その状態で笑顔だから怖い。


こっちの言い訳を許さない態勢だから余計に怖い。


「ふぅ…」


鏡花が深く息を吐く。
何かの予兆かと思って体が強張る。


だが、俺の予想とは反対に鏡花は攻撃態勢を解く。
張り付いた笑顔のままだが、雰囲気はいつもの鏡花だ。


安堵感と疲労感が同時に来て力が抜ける。


「兄さん。次にあの人が来る時は連絡してね」

「しても気付かないじゃん」

「…………」

「…あ」


気が抜けてつい言ってしまった。
いつも思ってた本音を零してしまった。


これはフォロー不可能だろ。
ヤバイ。俺のバカ。




「返信しないってだけで、いつも気付いてはいるんだよ?」




某日常アニメ的な雷を予想した俺にとっては斜め上。
意外な言葉を妹から聞けた。


恐る恐る鏡花の顔を見ると、いつもの不機嫌そうな顔だった。
その言葉と表情に今度こそ安心する。


大丈夫、いつもの俺達だ。


赤崎が妙なこと言ったりしてたけど、当の鏡花はいつも通りだ。
俺だっていつも通りで良いはずだ。


「だから、それ以外の連絡はしないでね」


うん。いつもの鏡花だ。
それにすごく安心してる自分がいる。


鏡花に外の世界を知ってほしかったはずなのに。
自分の趣味以外でも、人と関わって生きてほしかったのに。


どうしてだろう。


家に入る前までの複雑な気持ちは、いつのまにか違和感に変わっていた。



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