妹変 | ナノ
さよならは、また今度


じんじんと痛む額を押さえながら店を出る。
否、出させられた。


「兄さんのケチ。分からず屋」


普段はヘタレで、私の趣味なんか興味も示さないくせに。
こういう時だけ兄さんみたいに振舞う。


私はそれが苦手。
兄さんが兄さんらしくなると、私は妹にならないといけない。


自分らしく振舞えなくなる。


「悪かったって。そうだ、クレープ奢るよ」


兄さんがちょうど進行方向の先にあるクレープ屋を指差す。

そんなものでエロゲーマーは騙されないんだから!


「あれ。鏡花はクレープ嫌いだった?」

「…ううん」

「お腹いっぱい?」

「…そんなことない」

「じゃあ食べる?」


エロゲーマーは騙されない、けど。


「…うん」

「よし! どれが良い?」


今だけはエロゲーマーじゃなくて、妹だから。
普通の女の子なら、こんな風に騙されても良いかもしれない。


「一番高いの」

「なにその選び方!?」

「お財布を空っぽにしないとこの街からは出られないよ」

「それもう呪いだろ!?」

「人聞き悪いなあ。信念だよ」


兄さんが情けなく丸まった背中を私に向けて歩き出す。
その背中に声をかけようとして、やっぱりやめた。


「鏡花?」

「なんでもないっ」


小走りで兄さんの隣に追いつく。
そして、その腕に思いっきり抱きついてみた。


いつもはやらないこと。
でも今日はこんな風にたくさん、兄さんを近くに感じた。


一歩踏み出すだけで、隣がこんなにも暖かい。
こんなのも悪くないかもしれない。




ねえ、兄さん。
今日は一日楽しかったよ。
普段一人で来てる時よりもずっと。


お礼はまだ言わないでおこう。
家に帰って、兄さんに買ってもらったTシャツを渡す時に言おう。


また付き合ってくれるかも聞いてみようかな。


だから、いつもの困った顔で頷いて。



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