妹変 | ナノ
たぶん世界の中心で。


その店名通り、店内はガチャポンで埋め尽くされていた。


「一日の買い物で残ったお金は全部ここで摩るんだよ」


得意げにそう語る妹。
ちょっと待て、お前はいつもそんな風にしてるのか?


「宵越しの金は持たないのがエロゲーマー!」


俺は一般人なんだけど。
そんな言い分は通用しそうにない迫力だ。


不景気だ何だと言われていても、この街だけは景気が良い理由が分かった。


妹の力説に負けて、俺は財布を取り出した。


*** *** ***


「兄さん、これやりたい」

「はいはい」


その掛け声で、鏡花が指差す機械に小銭を投入する。
今日一日の中では一番楽な仕事だ。
鏡花は俺の存在など気にせず、出てきた商品に一喜一憂してる。


(今日は色々あったよな…)


多分、俺の人生の中で一番濃い一日だった。
よく言えば「内容のあった一日」だろうか。


変なTシャツ買ったり、ゲーセンでフィギュアを取ったり。
(鏡花は喜んでたな)


妙な雰囲気の店に入ったり。
(あれは参った。だけど鏡花は元気だったな)


思い返せば、鏡花はずっと笑ってた。
俺と一緒にこの街を回る中で、常に楽しそうだった。


(じゃあ、良い一日だったんだな)


初めての事だらけで困惑したけど、俺だって楽しかった。
それはきっと、この不思議な街と。
それを案内してくれた妹のお陰だろう。


「兄さん、次はこれ」

「…ん?」


いつのまにか店の奥の方まで来ていた。
そして今、俺と鏡花が居る場所は薄暗い。


その中でもやけにはっきり見える、俺達を囲む妙な人形群。


「なんだここ!?」

「ガチャポンの18禁コーナー」

「ガチャポンにそんなのあんの!?」

「あるよ。一回500円」

「高っ!!」


よく見れば入り口も狭く、明らかに他とは隔絶された空間。
何で俺は気付かなかったんだ。


「自分のお金だと迷うけど、兄さんの奢りなら」

「こんなの買ってどうすんの!?」

「さっきのあ●にゃんフィギュアと一緒に部屋に飾る!」


クリスマスプレゼントをねだる子供のような純粋な目。
こんな場所で、こんな内容でその目を出来るお前はすごい。


すごいけど、兄貴として許可できるわけがない。


「これはダメ」

「あうっ」


秋葉原探索の締めとも言えるこの場所で、俺は妹にチョップした。



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