妹変 | ナノ
世良兄妹のタン美な一日
「一切合財ーつぎこむわーここが勝負時♪」
鏡花が不思議な歌を口ずさむ。
その手には四角く盛り上がったビニール袋が握られている。
しっかりと8本買わせられたが思ったより出費は少なかった。
一本一万円が相場だと聞いたから、その半分以下で済んだ。
「敵前逃亡ー極刑よー逃げ場なんてないの♪」
スッキプ気味に歩を弾ませる鏡花。
変な店の常連だったり、特殊な趣味を持ってたりする妹だけど。
(…優しいよな…)
今日一日を振り返って本当にそう思う。
俺の妹は変だけど、きっと誰よりも優しいヤツだ。
「鏡花、ありがとな」
「何が?」
「俺のこと気遣って中古屋にしてくれたんだろ?」
つまりそういう事だ。
しかも、更に200円割引になるまで待っててくれた。
その為の今日一日のプランだったのかと思うと照れ臭くなる。
まるで仲の良い兄妹みたいだ。
「違うよ?」
「…え?」
鏡花に真顔で否定される。
嬉しさやらが全部吹き飛んで、またいつもの嫌な予感がしてきた。
「随分余裕そうだね、兄さん」
「え、いや…あの…」
「まだお財布にお金が残っていると見えた」
鏡花の目が光った。
いや、錯覚なんだけど本当にそんな気がした。
「今の店で終わりなんじゃ…」
「お財布にお金が残ってるなら変更!」
妹に腕を掴まれて引っ張られる。
こんなのも今日何回目だろう。
でも、そのどれよりも鏡花を近くに感じた。
それはきっと気のせいじゃない。