妹変 | ナノ
つわものが集う場所。


店の入り口を覆う無数のビラ。
黄色地のソレには商品の画像と買い取り価格が記載されている。


入り口から見える、そんなに広くない店内の様子。
まず、大画面の液晶が客を出迎えている。
そこには大音量の音楽と声が入り混じった映像が流れる。


「ここは…?」

「エロゲーの中古屋。私にとっての優良店」


また当然のように店に入って行こうとする妹。
今度はそれを止める手が間に合った。


「付き合ってくれる約束でしょ」


あからさまに不満そうな鏡花。
俺だって出来る限り付き合ってやりたい。


だけど、そうもいかない。


俺は先程の店で受けた視線を思い出す。
妹があんな視線をいつも受けているかと思うと嫌なんだ。


兄として、妹を一秒だってそんな所に居させたくないんだ。


「頼む。他なら付き合うから」


俺は縋るような想いで鏡花の腕を掴む力を強める。
けど、それは無残にも振り払われた。


「鏡花…?」

「さっき言ったでしょ。心配しないでって」


行動とは裏腹に、優しい微笑みを浮かべる鏡花。


俺に背中を向けて小走りで店内へ入る。
慌ててその後を追った。


「兄さんはそこでデモムービー見てて!」


そう言い残して、自分はどんどん店の奥へと進んでいく。
広くない店だから傍に行かなくても鏡花の動きは把握できる。


『さっき言ったでしょ。心配しないでって』


その言葉を信じてみよう。それもきっと兄貴の仕事だ。


「新作未開封でこの値段!?」


感傷に浸っていると、鏡花がひょっこりと現れる。
不意打ちで驚く俺を他所に鏡花も驚いている。


「これはノーマークだった。レビュー見てない。どうしよう」


ぶつぶつと呟き始める鏡花。
信じるとか言った矢先にアレだけど、ゴメン怖い。


「安いってことは地雷かな。でも特典目当てで即売りが大量に出た可能性も…」


鏡花は箱を手にとってマジマジと見つめる。
しかも、よく見たら鏡花は他の箱もいくつか抱えていた。


そんな妹の様子と同時に他の客の様子も目に入る。
その全員が鏡花同様、真剣に箱を眺めていた。


『猛者ばっかりだから!』


その言葉の意味がようやく分かった。
この店の客達は本当にゲーム目当てで来店してるんだ。


だから他には目もくれない。
そんな余裕はないし、必要もないんだ。


(こんな店の常連だなんて…お前はどこまで行くつもりなんだ…)


明後日の方向があるなら教えてほしい。
何となく斜め上を見上げてみると、商品の宣伝ではないチラシが見えた。


「月曜日の18時から200円引き…?」

「そう、それが目当てだったの!」


俺の呟きを聞いた鏡花が、箱から目線は外さずに返事をした。
そして一呼吸置いてから力強く頷いた。


「迷ったら買うのがエロゲーマーの鉄則!これは買い!」


興奮気味な独り言がテレビから流れる音楽に混じる。
それでも、店にいる他の客は自分の買い物から離れない。


「お会計よろしく、兄さん」


鏡花が約束である8本を選び終わるのに、そう時間はかからなかった。



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