妹変 | ナノ
おもて
「お待たせ、兄さん」
鏡花が買ったポテトやら飲み物やらを運んでくる。
俺はと言えば、机に突っ伏して死んでいる。
先程のゲーセンで金を大量にスッた上、一つしか獲得できなかった。
お財布もプライドもすっからかんだ。
「兄さん、元気出して」
「無理…」
「ゲームと現実は違うんだって分かったのが収穫だから!」
「それ追い討ち!」
高校時代は結構取れてた。
だから腕にそれなりの自信もあったのに。
妹の前でのこの失態。
それまでは頼れる兄貴の自信もあったのに。
あのUFOキャッチャーは俺の全ての自信を砕いてくれた。
「兄さん、これ見て」
鏡花がゲーセンでの唯一の戦利品を掲げる。
箱の中のギターを抱いた女の子がこっちを見て微笑んでいる。
「一番欲しかったあ●にゃんフィギュアはゲットできたよ!」
人形の女の子と変わらないくらい幸せそうな笑顔を見せる妹。
それに少し救われるが、罪悪感も襲う。
「でもそれ一つしか取ってやれなかったし…」
「オタク界は量より質!」
「休憩しないって言ったのにしちゃってるし…」
「私もちょうど喉渇いてたから」
「しかも金ないから安く済ませてるし…」
「マッ●は別に普通だと思うけど」
珍しく鏡花がフォローをしてくれる。
それでも立ち直れない、情けない俺。
鏡花も流石にそんな俺に呆れたのか溜息をつく。
そしてフィギュアを袋にしまって、ポテトをひとつ銜えた。
「確かに、彼氏なら失格かもね」
衝撃的な発言。
やばい、怒らせてしまったんだろうか。
恐る恐る鏡花を見る。
目が合うと、鏡花は予想と反して優しい笑顔を見せた。
「でも、私の兄なら合格点だよ」
さらりとそう言って、またポテトを口に運ぶ。
その様子はどこか楽しげに見えた。
こんなに情けなくても鏡花は俺を認めてくれてる。
そう思ったら、急に元気が湧いてくる。
俺は体を起こして鏡花と向かい合った。
「鏡花、さっきの人形なんだけどさ」
「人形じゃない。美少女フィギュア」
せっかくこの街に来たんだ。
鏡花の趣味も積極的に知っていこう。
初めて妹に、兄貴としては合格点って認められたから。