妹変 | ナノ
秋葉原と浅草。
「あ、お相撲さんがいる!」
赤信号が青になるのを待っている途中。
鏡花が大勢の人の中でも特に目立つ力士を指差す。
珍しいことなのか、妹は目を輝かせて彼らを見つめる。
俺はと言えば、彼らを見かけることはそう珍しくもない。
浅草によく浴衣姿で来ているのを見かける。
練習帰りに見かけることもしばしばだ。
「浅草でもたまに見るなー」
「そうなの!?」
何故か鏡花が食いついて来る。
鏡花が相撲を好きな素振りを見せたことは一度もない。
だがこの食いつき方から察するに、絶対に好きだ。
また妹の新たな一面を発見した。
鏡花が信じられないほど生き生きとする、この不思議な街で。
「あのさ、鏡花」
信号が青になって動き出す人と風景。
俺達もその流れに乗って歩き出す。
だけど、お互いの目は合わせたままだ。
「今度は俺が浅草を案内するよ」
俺が出来ることで、やっと妹を喜ばせてやれることが見つかった。
「うん!」
子どものような鏡花の笑顔が、強く印象に残った。