妹変 | ナノ
Looking-glass Insects


秋葉原の駅がすぐ近くに見える。
だけど鏡花はその手前で立ち止まる。


小奇麗だけれど妙な雰囲気のする店の前で。


「ここって…?」

「メイド喫茶。アキバグルメの定番!」


鏡花が誇らしげに胸を張る。
いや、何がだよ。


「ケチャップで何て書いてもらおーかな」


俺の返事も聞かず、妙な独り言を呟きながら店に入る妹。
溜息をついて仕方なく後に続いた。


「お帰りなさいませ!」


扉をくぐるや否や、メイド服に身を包んだ可愛い女の子に出迎えられた。
鏡花がどんな顔をしているかは見えないが、想像はできた。


席に案内されメニューに目を通す。
鏡花はもう決まっているようで、店内をせわしく見回していた。


「なんかおススメってある?」


結構種類があるし、どれも美味しそうだから決めかねる。
どうやら常連っぽい妹に聞いてみた。


「メイド喫茶に来たらオムライスだよ」

「そうなの?」

「ケチャップで好きな文字描いてくれるんだよ!」


店に入るときに言ってたのはそれか。


「鏡花は何て書いてもらうんだ?」

「すきやきって描いてもらう」

「何だそれ!?」

「卑猥な言葉は断られるんだって」

「何の話だよ!?」


妹が普段何をしているのか本気で心配になった。


それと同時に、店全体の電気が暗くなる。
俺の気持ちと連動したのかと思ったが、そんなことではなく。


店の真ん中にあるステージ(?)みたいな所にライトが当てられる。


「皆様、お食事中に失礼致します」


店員の一人であろう女の子がマイクで挨拶をする。
全員分の客の視線がその子に注がれる。


「今日はやまだ様のお誕生日だそうです!」


その言葉に店中がわっと湧く。


やまださんって言うのはカウンター席のおじさん客みたいだ。
沸き起こる拍手に、そのおじさんは恥ずかしそうに頭を下げる。


「みんなでお祝いしましょう!」


その言葉に更に盛り上がる店内。
メイド服の女の子が大勢出てきてハッピーバースデーを歌いだす。
客もそれに合わせて歌う。


「はっぴばーすでーとぅーゆー♪」


俺の目の前に座っている鏡花も楽しそうに歌っている。
俺もそれに倣って歌ってみることにした。


ほんの短い歌だが、それは祝福の気持ちで満ちていた。


俺はやまださんのことはよく知らない。
他の客だって、鏡花だってきっとそうだ。


人って、見知らぬ誰かをこんなに祝えるものなんだろうか。


オタク達の繋がりって不思議だ。
メイド喫茶でそんな事を思わされるなんて、やっぱりここは不思議な街だ。



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