妹変 | ナノ
ほんとにあった怖い話。


鏡花は行き先を告げないまま来た道を戻っていく。
俺はただついて行くしかない。


持て余して辺りを見回してみると、前方に集団が見えた。
実はさっきも気になってたことだ。


「あの行列って何なの?」


道の三分の一くらいを占拠している男性の集団。
最後尾って看板が見えるから恐らく行列なんだろう。


「AKB48の待ち行列だよ。ここの最上階が劇場なの」


鏡花が目の前の建物を指差す。
見上げてみると、見覚えのある黄色い看板が目に入った。


「ドンキホーテ?」

「うん。きっちりアキバ仕様のね」


さっきまで見た景色を元に想像してみる。
偏りがある気がするが、元々この街自体が偏ってる。


「私たちの行き先もこの上だよ」


鏡花はそう言って、歩を弾ませて店に入っていった。


エスカレーターで次々と上階へ登っていく。
その間に見える様子だけで、アキバ仕様と言うのが何となく分かった。


「次の階で降りるからね」


一番怪しい雰囲気のする階で鏡花は降りる。
しかし、売っている品物には目もくれず歩いていく。


どこに連れて行かれるのかと不安が込み上げてきた時だった。


「ここだよ」


鏡花が嬉しそうに振り向く。
その笑顔に騙されそうになるが、俺は看板を注視する。


「…メイド喫茶?」

「アキバグルメって言ったらコレでしょ!」


嫌な予感、的中。
自分には一生縁のない場所だと思ってたのに。


「私もここは初めてなんだ。楽しみ!」

「…そっか…」


何でここでその笑顔なんだ。
ってほどいい笑顔を向けられたら、入るしかなくなる。


「いらっしゃいませ!」


テレビで見たような台詞を言われることもなく席に案内される。
そして割高なメニューを注文する。


初めて来る店だからなのか、鏡花は終始そわそわしていた。


「お待たせいたしましたー」


メイドの格好をした女の子が料理を乗せた皿を運んできてくれた。
鏡花は子どものように目を輝かせた。


(こんな時だけじゃなくて普段の生活でもしてくれ…)


心の中で嘆いてみるが、目の前の妹には届きそうもない。
まあそれでも良いかと思ったその時だった。


「一緒に美味しくなる魔法をかけて下さい♪」


女の子の店員さんがそんな事を言い出す。
俺と鏡花は一瞬固まった。


「あ、私はいいです。メイドさんお願いします」


鏡花が困惑気味に断りを入れる。
それは意外だったが、俺も正直なとこ遠慮したい。


一緒にかけて下さい」


あれ。目が怖いんですけど。


「こ、こういうのは可愛い女の子がやってくれるのを見るのが…」

決まりですので


あ、あれ、言っちゃったよ!?


笑顔は崩さないものの目は笑っていない女の子。
俺と鏡花は凍りついた。


「鏡花、まあやろうよ…」

「うん…」


鏡花が力なく俺の提案に頷く。
それを聞いた店員さんは営業スマイルを輝かせた。


「それじゃあいきます!やり方をご説明します♪」


店員さんの元気に反比例して元気をなくしていく鏡花。
それでも弱々しく教わった動作はしていた。


「あのさ、鏡花」

「なに…」

「メイド喫茶ってこんな感じなの?」

「………」


鏡花は俺の質問に答えなかった。


それから店を出るまで一言も喋らなかった。
よく分からないけど、落ち込んでいるようだった。


しかも会計の時「ご帰宅料」とか言って500円取られた。
メイド喫茶おそるべし。



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