妹変 | ナノ
お礼とお詫び。
「結構歩いたけど…まだ?」
「もうすぐだよ」
進むにつれて人が多くなってきた。
道幅は広いはずなのに、その全てが人で埋まっている。
人が行き交うってこういう事なんだろうな、と思った。
「ほら、あそこの緑色の看板の店!」
鏡花が俺の手を引いて走り出す。
やっぱりこうなるのか。
兄としては複雑だ。だけど大人しくついて行く。
生き生きとしている妹を見られるのは嬉しい。
その笑顔を陰らせたくないんだ。
「今度は普通の店…っぽい?」
「兄さんでも楽しめそうなグッズ屋さんだよ」
鏡花は俺の手を放して店奥へと進んでく。
慣れた様子だから、やっぱりよく来る店なんだろう。
店内には見た事のある可愛いキャラクターのグッズが置いてある。
こんな普通の店にも来てるのかと安心する。
でも、それらを素通りするからまた不安になる。
「あの鏡花…?」
「あ、コレこんな所に移動してたんだ」
鏡花が一つのコーナーで立ち止まる。
そこにはたくさんのTシャツが置かれていた。
「コレ買って着ようかと思って!」
鏡花が一枚のTシャツを広げて自分に当てる。
真ん中に何か書いてある。
「24時間自宅警備員…?」
「ぴったりでしょ」
誇らしげに笑う妹。
鏡花のセンスってつくづく謎だ。
「それで兄さんには…コレ!」
一枚のTシャツを差し出される。
手に取って広げてみると、やっぱり字が書いてあった。
『裸になって何が悪い』と。
「一時期話題になったあの名言だよ」
「俺、別に脱がないし…」
「原作第一巻で脱いでました」
「何それ!?」
鏡花は俺の手からTシャツを奪って畳む。
そしてソレを先ほどの一枚と共に胸に抱えた。
「今日のお礼だよ。買ってくるね」
鏡花が屈託なく笑う。
センスはアレだが、純粋な厚意なんだろう。
それが妙に嬉しかった。
「…兄さん?」
俺はさっきと同じように鏡花の肩を掴んで止める。
振り返った鏡花からTシャツを取り上げた。
「さっき付き合ってやれなかったからさ」
鏡花がお礼って言ってくれるなら、こっちはお詫びだ。
それに、妹に金使わせる兄貴なんてダメだ。
これを渡した時に、また同じように笑ってくれるだろうか。
俺は不思議そうにする鏡花を後にしてレジへ向かった。