妹変 | ナノ
晴れのち雨でも
「ジャイアントキリング?」
「そう!」
テスト当日の朝。
徹夜で眠いし頭の容量はいっぱいでパンクしそうだ。
なのに、そんな横文字を兄さんが元気よく言う。
英語は今日の試験科目にある。
準備運動がてら、靄のかかる頭で英訳を試みる。
「巨大な殺害?」
「不正解!」
どうやら間違ったみたいだ。
今日の試験が急に不安になってきた。
「弱いヤツが強いヤツを倒すことを言うんだって」
兄さんが得意げに正解を言う。
大方、誰かの受け売りだろう。
問題なのは、何でそんな事を今言うのかってことだ。
「私が弱いって言いたいの?」
「そうじゃなくってさ」
兄さんが溜息混じりに笑う。
「鏡花に頑張ってほしいんだよ」
屁理屈とか反論はもう出てこなかった。
*** *** ***
ほぼ遅刻ギリギリの時刻。
私が教室に入ると、騒然としていたクラス内が静まり返った。
私は気にせず自分の席に…って、どこか分かんないや。
「おはよう、世良さん」
「あ、委員長。時間割ありがとね」
「うん。世良さんの席は一番前だよ」
列のど真ん中の一番前。
いわゆるアリーナ席を指差される。
色々と思うことはない訳じゃないけど、大人しくその席に着いた。
「お、世良。さすがのお前も留年は怖いか?」
担任(のはず)の教師にそんな嫌味を言われる。
その言葉にクラスメイトが笑う。
まあ、それも仕方ない出席状況と頭の悪さだからなあ。
私は既に色んなことを諦めてる。
だからこんな状況にも全然腹は立たない。
私には画面の中の美少女が居れば良い。
それと、信じてくれる人が一人でも現実に居てくれれば。
兄さんに教えてもらった言葉を思い出す。
ジャイアントキリング。
マイナスからのスタートで上等だ。
心配そうにこちらを見つめる委員長に微笑み返した。