妹変 | ナノ
悩むな危険
自分がどうしたいのか分からない。
何も持たずに出て行った鏡花を追いかけたいのか。
違う。だったら赤崎にお茶とか出してない。
鏡花と赤崎に仲良くなってほしいのか。
素直に頷けない自分がいる。
かと言って、否定も出来ない。
『俺、アイツのこと気に入ったんで』
赤崎にああ言われてからそればっかり考えてる。
けど俺の空っぽの頭じゃまとまらない。
誰かに相談することも出来ない。
行き詰まって天を仰ぐと静かに茶を啜る、問題の張本人が視界に入った。
何となく目が合うと、赤崎は湯呑みをテーブルに置いた。
「世良さんってアイツをどうしたいんスか?」
まるで俺の思考を読んだかのような赤崎の発言。
また疑問が頭の中をぐるぐると回りだす。
答えは当然出ない。
「このままじゃアイツ駄目になりますよ」
その言葉に一瞬、目の前が真っ白になった。
それは俺が今まで漠然と感じていた不安。
鏡花との交流の中で何度も繰り返してきた言葉。
それを鏡花と知り合ったばかりの赤崎に言われた。
「…どーいう意味だよ」
「さあ?」
他人から見てそんなにマズイ状況なのか。
赤崎の返事は、そんな俺の焦りを見透かされたように感じた。
*** *** ***
赤崎が去って一人になった家に扉の閉まる音が響いた。
その後に聞こえる小さな足音が段々と大きくなる。
「ただいま」
あれから二時間くらい経ったんだろうか。
時計を見てもよく分からない。
いくつかの言葉だけが俺の頭を回る。
おかえり。
どこ行ってたんだよ。
連絡できなくてゴメン。
赤崎と仲良くしろよ。
「なに?」
「……っ…」
どの言葉も形になって出てこない。
何でだよ。
「…兄さん?」
「これ…ケータイ…」
ズボンのポケットに入れてあった鏡花のケータイを差し出す。
鏡花が伸ばした指先が少し俺の手に触れた。
「ありがと」
その言葉に胸が痛む。
俺は礼を言われることなんかしてない。
なあ、俺はお前をダメにしてるのか?
答えはイエスかノーかの二つしかないはずなのに、いつまでも出なかった。