妹変 | ナノ
ココア色シンフォニー


「これはしばらくお預けか…」


今日の戦利品を眺める。


足が石のようになるまで歩いて手に入れたもの。
私にとっては何よりも大事なもの。
それより大事なものなんて私にはない。


「ないんだけど、な…」


先ほどの兄さんとのやり取りを思い出す。


私だってそこまで疎いわけじゃない。
今回の試験を落せば間違いなく留年だろう。


学校にはまともに行ってないし、試験だっていつも赤点スレスレ。
それを改善する気はないから、どんな処分にも異存はない。


全て自分なりに納得してやってることだ。
親だってもう諦めている。


『試験は絶対受けて、いい点とること!』


なのに、兄さんだけはどうにかしようとしてくれてる。


留年って単語は出さずに。
お金なんて持ってないくせに、好物で私を釣ろうとしてまで。


「ばーか…」


私は引き出しの奥底にしまった教科書やらを引っ張り出す。
その中身は相変わらずの呪文ぶりだ。
それでも私はノートを広げて机に向かう。


「やりますか」


椅子に座って大きく伸びをすると、ノックの音が聞こえた。
そしてノックの主は返事も聞かずに扉を開けた。


「調子はどう?」

「これから始めるとこだよ」


さっき別れたばかりなのに気が早い。
兄さんは私の答えに少ししょんぼりしているようだった。


「用はそれだけ?」

「まだあるよ!」


兄さんが後ろ手に隠し持っていた物を差し出してくる。
それはマグカップで、小さく湯気を立てていた。


「ココア?」

「鏡花はこれ好きだっただろ?」

「……うん…」


兄さんはずるい。
こういう時だけすごく兄さんっぽくするから。


「分かんないトコあったら聞いてな!」

「うん、ありがと」


頑張らないわけにはいかないでしょ。


ゲームの為なんかじゃないよ。
この期待に応えなきゃ私が私じゃなくなる。


兄に期待されて励まされて、それで動かない妹はいないよ。
ゲームでも、現実でも、きっと。



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