妹変 | ナノ
睡魔警報


エンターキーを押す動作が段々と作業化してきた。
それを感じて手を止める。


「…ダメだ…」


お目当ての子が目の前にいるのに全く集中できない。
こんな気持ちじゃ、ヒロインに失礼すぎてゲームを進められない。


(仕方ない…)


今度はちゃんとセーブをしてゲームを閉じる。
そして、その代わりにケータイを開く。


気になっている事を一つずつ片付けていこう。
まずはこれだ。


「メールしろとか言ってたっけ…」


アドレス帳を開いてみる。
登録人数が少ないこともあって、その名前は見つけやすかった。


「あかさき…あかざき?」


どっちだっけ。
濁らなかった気がする。じゃあ濁った方で呼ぼう。


心の中でそう決めて画面を眺める。
真っ白の本文入力画面は自分の顔を映した。


「…………」


どうしよう、文面が浮かばない。


と思ってたら新着メールの知らせが入った。
あの人からだ。


何だろうと思いつつメールを開く。
自分で寄越すタイプには見えなかったから意外だ。


「…おせえぞ…?」


メールにはたった一言。
書かれていた文字を声に出すと、忘れていた怒りが湧き上がるのを感じた。


前言撤回。いかにもあの人らしい。


このままケータイを閉じてしまおうか。
本気でそう思う。


(だけど…兄さんが…)


年長者への礼儀、とあの人は言った。


(私がちゃんと出来なかったら、兄さんに迷惑がかかる…)


それは嫌だ。
これ以上の迷惑はかけたくない。


兄さんを困らせていたいとは思うけど、それはそういう事じゃない。


「…………」


少し考えて返事を打つ。
ただ、素直に返すのは腹が立つから捻くれた文面で。


『礼儀<美少女!』


うそつき。
今は美少女ゲームなんてしてないくせに。


心に引っ掛かりを感じながらも送信ボタンを押す。
ちゃんと送れたのを確認して、私はベッドに倒れ込んだ。


気になってた事、これで一つ終わった。
次は兄さんに謝らなきゃ。


(でも、今日は少し疲れたな…)


今は眠ろう。
それで、目が覚めたら兄さんに謝ろう。


兄さんはあの人と違って、きっと急かさない。
明日になっても待っててくれる。


今までもそうだったんだから。


優しい兄さんを思い出して、私はどこか安心して目を閉じる。
ケータイを放した手は少しずつ温かさを取り戻していた。




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