妹変 | ナノ
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風呂上がりの俺に妹から一言。


「兄さん。服」


単語だけで的確に用件を伝えられる。
長い付き合いの賜物なんだけど、この虚しさは何だろう。


「兄さん。服」

「分かったよ!二回も言うなよ!」

「早くして」


指摘された俺の格好はと言うと、腰にタオルを巻いただけだ。
鏡花がリビングに居るなんて思わなかったから普段通り出て来てしまった。


(いつも鏡花は部屋だし…両親は気にしてねえし)


珍しくリビングで寛いでいた鏡花と鉢合わせしたら注意されたワケだが。


(なんか違和感…)


鏡花は恥ずかしがるでも嫌がるワケでもない。
大して表情も変えずに、妙な雑誌のページを淡々と捲っている。


「それ何の雑誌?」

「兄さん。服」

「…………」


こちらを見もせずに言われる。
俺がちゃんと服を着るまで話すつもりはないらしい。


(…反応ちがくね?)


普通こういう時はもっとテンション高めで注意するモンじゃね?
慌てるって言うかさ。


(逆の時は…俺だったら…)


そう考え出して初めて気がつく。
今みたいな状況になるのも珍しいが、この逆は一回もなかった。


「鏡花は意外にちゃんとしてるよな」


俺の妹は学校には行かないし、私生活は割とぐうたらだと思う。
それでも、そういうトコだけはきちんとしてる。


鏡花は俺の言葉を深読みしたのか、不機嫌そうに顔を上げる。
そして俺を数秒見ると、やっぱり慌てることもなく雑誌に視線を戻す。




「嬉しくないサービスシーンはカットの方向でいきたいよね」




何故か溜息混じりで吐き出された言葉。
ごめん、スポーツ選手として兄として色々複雑だ。


「…何だよそれ」

「兄さんの裸とか私の半裸とか」


いや、そういう返答を求めてたワケじゃなくて。


「やっぱり美少女のじゃないとね!」


鏡花がそれまで読んでいた雑誌を閉じて勢いよく立ち上がる。
俺の反論を許さないと言わんばかりの素早さだった。


「そーかよ…」


何だか遣る瀬無くて体中の力が抜けた。
湯冷えしてきて寒いし、そろそろ服をちゃんと着よう。


「兄さんは私のパンツとかで興奮するの?」

「しねえよ!」


リビングから出ようとした所でそんなことを聞かれた。
ほぼ反射で否定すると、鏡花は一人で納得するように頷いた。


「私も同じで、兄さんの裸にときめいたりしないから」


悪意のない笑顔で言い切られる。
逆にそれが受けるダメージを大きくする。


(正論なんだけど…なんて言えばいいんだ…)


兄妹だけどやっぱり異性だって意識する時あるじゃん。
それが俺にだけあって妹には全く無いという事実が衝撃だ。


「だから眼福じゃない光景はカットの方向で」


俺の心が完全に折れた頃、髪から滴る水滴はすっかり冷たくなっていた。




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