妹変 | ナノ
あるある? ないない!
とある休日。とある昼下がり。
昼食後、両親の出かけた家で兄妹二人、会話もなくテレビを見る。
いつもこの沈黙を破るのは俺の役目だが、今日は珍しく鏡花が破った。
「エロゲーマーあるあるー」
なんかすごい棒読みで。
いつものことだけど嫌な予感しかしない。経験則で。
「エロゲ売り場に行って初めて贔屓ブランドの新作発売を知る」
隣に座る俺に視線も寄越さず、テレビを見たまま話し続ける。
「いや、だから何…」
「エロゲーマーあるあるー」
本日二度目の棒読みで遮られる俺の疑問。
「だからテッ●ジャ●アンの定期購読を書店に申し込もうかと迷う」
人生何百回目かの謎の単語。
こればかりは何回経験しても慣れない。
「…………」
「…………」
俺が混乱していると、二人きりのリビングがまた無言になった。
ちらっとこちらを見た鏡花と今日初めて目が合う。
(あ、ここでこの話しは一区切りなのか。じゃあ今の本題?)
会話が途切れて初めて本題が分かるこの悲しさ。
これも何度味わっても慣れない。
「えーっと、そのテック●ャイ●ン?って何の本?」
俺は何とか聞き取った単語を繰り返して妹に尋ねる。
会話が成立しそうな予感もして、胸の中にほんの少しだけ充実感。
「売り上げ部数No,1の美少女ゲーム情報誌。ちなみに18禁」
「…………」
そう、期待はしてないんだけどさ。
いつも通りの展開だ。
これだって予想もしてるのにどうして慣れないんだろうな。
普通の兄妹みたいな会話を、どこかで期待している自分がいる。
*** *** ***
「せめてG'sマ●ジンにしとけよ」
「ジーズマガ●ンをG'sマ●ジンと表記するとは流石リア充」
「関係ねーだろ」
数日後、今日も仲良く濃い会話をする後輩と妹の姿があった。
「ジー●マガジンは付録と連載コミックは魅力的なんだけど…」
「それで満足しろよ」
「あれはギャルゲ色が濃いからなあ…」
「変態」
「リア充」
「…勝ったな」
「勝ちを譲ってあげる勇気!」
ギャーギャと子どもみたいな言い争いをしている二人。
それが取っ組み合いのケンカにならないか心配しながら見てる俺。
(…うん、いつもの光景だ。今日も平和だ…)
もうこれでいいんじゃないかと思えてきてしまう。
好転どころか悪化しかしない毎日だけど、鏡花が楽しそうなら。
(でも、世間的には堕落して行って笑顔だけ輝かれてもなあ…)
やっぱ兄貴としてそこら辺の心配と葛藤がある。
この板ばさみはまだまだ終らなさそうだ。
「第一、それを世良さんに言ってどうする気だったんだよ」
自分の名前が出たことで俺は現実に意識を戻す。
鏡花はやはり俺をちらっと見て、目が合うと今度は気まずそうに逸らした。
「兄さんの名前貸してもらおうと思って」
その一言で凍りつく空気。
そんな恥らう乙女みたいな反応してもダメだ。俺は騙されない。そこは学んだ。
「貸してやれば?」
「貸さねーよっ!」
しばらくは慣れに流されない日々が続きそうだ。