妹変 | ナノ
ダメ人間論!
「…おはよう」
一家団欒の朝食。少し遅れてきた私への返事はない。
昨日の今日で普通に戻れるワケがないと頭では分かっているけど複雑だ。
「やっべー遅れる!」
身支度を微妙に整えた兄さんが気まずい雰囲気をぶち壊す。
私と両親の視線を一身に引き受ける兄さんは私に視線を合わせた。
「おはよ、鏡花」
「!」
どこまでが計算でどこまでが天然なのか分からない。
でも兄さんのことだから、きっと全部自然にやってくれてることなんだと思う。
「…おはよう」
さっきは何の反応も返ってこなかった挨拶だけど今度は兄さんの笑顔がある。
(そうだ、頑張るって決めたんだった)
諦めが頭を過ぎっても兄さんが思い出させてくれる。
それがどんなに間違った道であろうと、決めたことはやり通そう。
(…でも朝はもう少し遅く起きることにしよう)
一日の始まりから嫌な思いをしたくはない。
親を説得するのは時間がかかりそうだし、成功の見込みもないのでやめとく。
明日から本気出す。
この辺りからこれが心の中の口癖になったような気がする。
そして朝が遅くなれば自然と学校に行く足も止まるようになった。
夜更かしは当たり前。朝は親が出て行ってからのそのそ起きる。
授業途中で教室に入ると目立つから学校にも行かない。
人間は一度レールから外れると、面白いくらい踏み外していくものだ。
「あれ、学校は?」
兄さんが休みの日はリビングで鉢合わせるようになった。
学生が家にいるには明らかにおかしい時間だから兄さんは当然首を傾げる。
それでも私が答えずにいると深くは追及しなかった。
「何のゲームやってんの?」
「美少女との仮想恋愛を楽しむゲーム。兄さんもやる?」
「やんねえけど…何それ」
そう聞かれると、一体何なんだろう。
人の理想が詰め込まれているもの。と私が感じているもの。
これから私の時間もお金も惜しみなくつぎ込んでいこうと考えているもの。
学校より楽しくて、勉強よりも尊くて、家族の絆よりも大切なもの?
「……多分そう」
「え?」
「ううん、なんでもない」
答えは出ない。出ているのかもしれないけど、誤魔化した。
「それにしても準ちゃんは可愛いな」
「誰それ?」
「私に笑いかけてくれてる子」
「えっと…ゲームの中の女の子?」
「準ちゃんは男の娘だよ」
「ええ!?」
私は前よりもよく笑うようになった。
純粋な楽しさ故か、何かを誤魔化す為かどうかは、よく知らない。
何かを誤魔化す時もあるし、とびきり楽しい時もある。
今はきっとそれでいい。
新しいことを始めるのに恐怖が伴うのは当たり前だ。
それを克服していくのが、きっと自分を変えるってことだ。
「今日中にこのソフトをコンプリートする!」
「よく分かんないけど…頑張れ」
「言われるまでもなく頑張る。春姫ちゃんが私を待ってる」
「だから誰なんだよそれ…」
兄さんと、画面の中の美少女と一緒に頑張ろう。